IT業界の人間でも業界事情を正しく理解できないことは普通にある


客先常駐に関して話題となっている記事がありました。

ここ最近の客先常駐の実情

なお「ここ最近の」とタイトルにありますが、細部は色々と変化もあったとしても、ずっと前から客先常駐の実情はこの記事にあるような感じなのではないかという印象です。この記事の内容について色々と話題となっているようですが、おかれている環境の違うエンジニアが客先常駐について論じている内容を比較している記事もありました。

弱いSEの増田が書いた「客先常駐」の話を、強いSEが「嘘だ」と言っちゃうこんな世の中じゃ。

この記事の中では環境の違う2人のエンジニアのことを「弱いSE」「強いSE」のように表現されています。記事中にもありますが便宜上そのような表現で定義してあるだけで、どちらが強いとか弱いとかということではありません。

この記事の中で「弱いSE」と表現されているのは環境に恵まれていないSE、「強いSE」と表現されているのは環境に恵まれているSEといったこところでしょうか。いずれにしてもおかれている立場が違うと業界事情に関しての見方もこんなにも変わってしまうということがよく分かる内容です。

同じIT業界(以下客先常駐含むシステム開発業界として論じます)について論じているはずなのにどうしてこうも見方が変わってくるのでしょうか。私自身の経験を踏まえて考えてみました。

IT業界にいても業界事情を正しく理解しているわけではない

まず一つ言えることは、IT業界と言っても広いのでどのポジションにいるかによって業界の見方も全然変わってくる可能性があるということです。

多重下請構造

多重下請構造

これはこの業界のことを簡易的に表現した図ですが、顧客から直接仕事を受注している1次請けの会社と末端で下請けをしている会社とでは見えている景色がまるで違うものとなることは当たり前かもしれませんね。

私自身は1次請けとしてエンジニアが送り込まれる側の会社も、末端のエンジニアとして送り込まれる側の立場も、様々な立場を自分自身で経験してきておりますが、現状私が認識しているIT業界は下記のブログ記事のような感じです。

IT業界の多重下請け構造とは何なのか

これも現状で私が認識している業界事情でしかないので、まだまだ私の知らない業界事情もたくさんあるかもしれません。

ちなみに私自身がこの業界に入ったばかりの新人の頃には、このような多重下請け構造や偽装請負という業界事情については全く認識しておりませんでした。このような多重下請け構造の真っ只中にいたにも関わらずです。

私が新卒で最初に入ったシステム開発会社は、会社規模としては中堅でしたが顧客から直接仕事を受注することの多い1次請けメインの会社でした。客先常駐もありましたが1次請けとしてチームで客先に常駐することが多かったです。

どちらかというと「協力会社」と呼ばれる他社さんのエンジニアを常駐先として受け入れる側がほとんどだったのですが、当時の私はこの協力会社と呼ばれる会社はどこかの普通の派遣会社だとしか思っておらず、それがまさか多重下請け構造になっていたり、派遣契約ではなくて請負契約や準委任契約となっていることなど全く知りませんでした。

このような構造を正しく理解できていないエンジニアは現場にはたくさんいると思います。特に顧客から近いポジションにいる一次請けメインの会社にいると、IT業界の色んな意味でディープな構造の真の姿を知る機会がないことは多いと思います。

IT業界のディープな構造を理解するようになったのは送り込まれる側の人間になってから

最初は一次請けメインのシステム開発会社で働いていてましたが、協力会社と呼ばれる会社の人達は多数社内に在籍していました。その人達と一緒に客先に常駐していたこともあります。

というよりも私が初めて配属されたプロジェクトでは、20人くらいのチームだったのですがその中で私と同じ会社だった人はチームリーダーの1人だけでした。配属されたての私はそんなこと知る由もなく、20人くらいいるチームメンバー全てが自分の会社の先輩社員だと思いこんでいましたが、実はそうではないということを知ったのはだいぶ後になってからのことです。

確かに今思い返してみると、チームメンバーの人達との会話の中でIT業界のディープな構造には触れていました。

給料についての話題の時には「間に何社も入っているから俺のところに入ってくるお金はすごく少ない」とか言っていた人がいましたし、泊まりやタクシー帰宅になった時には「ホテル代やタクシー代が中間会社に搾取されて俺のところまで降りてこない」とか言っている人がいました。

色々経験してきてこの業界の構造を理解している今であればこれらのセリフが何を意味しているのか理解できます。でも当時の私には正直何を言っているのか全く意味がわからなかったわけです。

間に何社も入っているって何?ホテル代やタクシー代が支給されないわけないでしょ?こいつら何意味のわからないこと言ってるんだ?というのが当時の私の正直に感じた感想です。頭のおかしいのはこいつらであって、業界構造がおかしいなどとは微塵も疑問に思わなかったです。

だいたい一次請けの会社の現場のエンジニアにとっては、協力会社は協力会社であって、それがどこの会社であるかとか把握なんかしてません。実際には派遣会社であるのかそうではないのか、契約内容は派遣契約であるのか請負契約・準委任契約であるのか、そんなこと一部の権限持った人間以外は把握していません。

ですので送り込まれてきたエンジニアのチーム編成やマネジメントも普通にやりますし、全然普通に指揮命令だってやりますよ。SESなら指揮命令は行わないとか詭弁をたれている会社はよくありますが、現場の人間は派遣なのかSESなのか把握すらしてないことが当たり前にありますから、「SESなら指揮命令は行わない」は建前でしかないと思います。

私自身がIT業界のディープな構造について理解し始めたのは、サラリーマンを辞めてフリーランスとして仕事をするようになってからのことです。末端のエンジニアとして送り込まれる側の人間になって初めて何かがおかしいと感じるようになりました。

正社員の面接をしに行った会社(SES会社)で「フリーランスという働き方もありますよ」とフリーランスを勧められた経験。その会社のセッティングで面接に行くと次々と違う会社の営業に身柄を引き渡されていく経験。

ちなみにその時に顧客だと思って面接をしてくれていた人も顧客ではありませんでした。その時に面接をしてくれた人は3人いたのですが、1人は一次請けの会社の人、1人は二次請けの会社の人、もう1人は5次請けか6次請けくらいの末端のフリーのエンジニアでこの人とは一緒にアクシアを創業してうちの会社の役員となっています。w

こうした送り込まれる側の経験を踏まえて、IT業界のディープな構造を理解していったのであって、私自身最初から多重下請け構造や偽装請負を理解していたわけではありません。

業界事情を理解していなかった頃に、IT業界のディープな構造に触れていなかったわけではないですよ。むしろどっぷり業界構造の枠組みの中に組み込まれていたわけですが、「強いSE」の立場にいた時にはその構造を正しく認識することができなかったということです。

強いSEの立場にいる人にはIT業界の負の構造について、知る由もない場合があることはよく理解できます。

SESエンジニアの能力に関する言及

強いSEの方が言及している内容で、SESで使えない子はあり得ない、顧客よりスキルがないとおかしいというような内容がありますが、実情としてそんなことは全くないですよね。未経験に近い人が現場に送り込まれてくることなんて普通にありますね。

そういう人達は現場に送り込まれてきてもエンジニアとしての仕事はまともにできませんから、簡単なテスト業務しかやらせてもらえなかったり、Excelなどを使って何かの情報管理をしたり、そういうエンジニアとは言い難いスキルの身につかない仕事中心に任されることになります。

また中途半端な状態でスキルを持っている人もいてこういう人は結構厄介です。全くプログラミングができないわけではないのですが、いると余計なことばかりして余計な仕事を増やしてくれる素敵な人達がSESでは結構存在します。何もやらないで座っていてくれた方がまだマシというレベルです。

私が新卒で入った一次請けメインの会社でもこういう人達をたくさん受け入れていました。そのままでは使い物にならないので、その会社では親切にそういう人達にはスキル教育を施していました。そしてそろそろ戦力になるかなというくらいまで育ったところでプロジェクトを離脱していくという涙なしでは語れない現象も何度も目の当たりにしてきました。

このようにまともに仕事できない人なんてごろごろしているのがSESです。そんなこと普通にあります。SESで使えない子はあり得ないなんていうのは妄想でしかありません。

SESの違法性に関する言及

強いSEの方が、「SESを違法労働に結びつけるのは無関係」と言及しています。何で無関係なのか何も書かれていないのでなんとも言えないところではありますが、SESで客先常駐の現場が偽装請負の温床となってしまっていることは紛れもない事実であって、違法労働と無関係などとは到底言えません。

SESという契約形態そのものがイコールで違法労働というわけではもちろんありませんが、SESで客先常駐という環境が違法労働を誘発しやすい環境であることは間違いないでしょう。

人売りIT派遣企業はそろそろ壊滅させてもいいと思う

SESで客先常駐で成長できた、なので案件次第・実力次第とも言及されていますが、SESで成長できたということの方が無関係ですね。強いSEの方が「案件次第・実力次第」と言及されている通り、実際のところは本人次第・運次第であって、成長できたこととSESとの因果関係は弱いです。

SES企業の見分け方

以上のように、同じIT業界の人間であっても業界事情を必ずしも正しく理解しているとは限りません。その立場によっては業界の一つの側面しか見えていないということは当然考えられます。

この業界での就職を考えた時に業界経験者の生の話を聞いてみることは良いことですが、話を聞く対象が「強いSE」の立場しか経験したことのない人に偏ってしまうと、この業界に入ってきてから「こんなはずではなかった」となってしまい、悲しい結末を迎えてしまうことにもなりかねません。

私自身はエンジニアのことを考えても顧客のことを考えても、SESという形態には極めて否定的な立場ですが、IT業界でシステム開発を事業として掲げている会社では依然としてSESメインの会社が多いことも事実です。それを見分けたい方のためには下記のブログ記事などもよろしければ参考にしていただければと思います。

人売りIT派遣企業(SES・客先常駐)の見分け方

これからIT業界を目指そうと志している学生の方や、他業界からエンジニアとしてこの業界を志している方におかれましては、様々な角度からこの業界の正しい姿を認識していただき、正しい情報のもと自分の目指したいと思う会社を選んでいただければと思います。