電通の従業員の過労死自殺の事件がきっかけとなり、世の中の空気が働き方改革に向けてがらっと変わりました。昨日こんなニュース記事を読みました。
電通はホワイト企業になれる? 労働時間2割減の計画…残業ゼロ、有給完全取得が前提
これによると以下のような施策を実施、または実施予定だそうです。
- 午後10時~翌午前5時までの深夜業務を原則禁止
- 正社員や契約・派遣社員を計274人緊急増員する
- 正社員採用を17年度の1.5倍にあたる年250人に増やす
- ロボットによる業務自動化(RPA)を進める
- サテライトオフィスを全国18か所で導入予定・在宅勤務を導入予定
- 週休3日制への移行検討
そしてこの記事によると、電通の目標は「土日祝日休み・残業0・有給取得率100%」が前提になっているそうです。すごいですね。2014年度に2,252時間だった1人あたりの年間総労働時間を、2019年度には1,800時間まで削減する目標のようです。
一部のニュースで「22時以降の残業原則禁止」等の部分だけが切り取られて報道されていたものを聞いた時には、あれだけの事件を起こしておいて22時以降の残業禁止程度のことしかやらないのでは本気になって取り組んでいないようにも思ってしまっていました。
しかし「土日祝日休み・残業0・有給取得率100%」が前提でありそれを本気で実現しようとしているのであれば、その徹底した姿勢は評価されるべきだと思いました。
というわけで、電通のウェブサイトにアップされていた「労働環境改革基本計画」を私も見てみました。
労働時間を80%に削減
2014年度の2,252時間に対して、2019年度までに1,800時間まで削減する計画のようですね。
これを見ると年間で150時間ずつ、月間だと12.5時間ずつ削減していく計画のようですので、それほど無理のない計画なのではないでしょうか。
ただし個人的な懸念点としては、サービス残業が存在している場合にはここの数字には現れてきていないはずなので実質的にはもっと難易度は上がる可能性があるのではないかということと、ここにある1人あたり総労働時間は平均でしょうから、人によって労働時間にはばらつきがあり、長時間労働が激しい従業員であるほど、労働時間削減の難易度は上がることが予想されますね。
労働時間を80%に削減するその内訳について、具体的な内容も記載されています。
おそらくこれらの施策によって一定の業務効率化はされるのだと思いますが、心配な点はそれだけでは残業時間は必ずしも少なくならないということです。アクシアでも業務効率化による残業時間削減を試みてきましたが、残業時間が全く減らない期間が3年間続きました。それについて詳しくはこちら。↓
どんなに業務効率化したところで仕事は次から次へと湧いてきますし、やることなくて暇なんてことにはなりませんから、業務効率化によって労働時間された時に生まれた余剰時間に別の仕事を入れずにしっかりと休めるかどうかが大きなポイントになってくると思います。
人を増やしたり、無駄な作業を廃止したりすると間違いなく業務時間は短縮されるはずなんですが、そこで空いた時間に別の仕事を入れたくなってしまう誘惑・・・。お小遣いもらったらもらっただけ使ってしまって貯金ができない現象と似てるかもしれません。w
取引先や業界団体と一体となった業務プロセス改善
この労働環境改革基本計画の中で私が注目したポイントの一つに、取引先や業界団体と一体となった業務プロセス改善というものがあります。自社の労働時間を削減していこうと思ったら、顧客の理不尽な要求を排除していくことは必須となるからです。
ここで言う「取引先」が顧客のことを指すのか、下請けのことを指すのかが不明ですが、「取引先に対する協力要請を推進」の内容が単に下請け企業に負担を押し付けるといった対応を意図しているものではないことを願いたいと思います。
一方で「業界団体を通じたルールづくりを推進」に関しては、業界としてルールを策定することにより、クライアントの無茶な要求を排除していくことを意図しているのではないかと思いました。電通だけが無茶なクライアントの要求を拒否すると、その顧客がライバルに流れてしまうことを懸念しているのだと思います。
しかし私の考えとしては、そんなことは気にする必要はないと思います。確かに電通が無茶な要求をしてくるクライアントを拒否すれば、そのクライアントは無茶な要求でも受け入れてくれる競合他社に流れてしまうかもしれません。でも無茶な要求を受け入れるということはその競合他社は労働環境を改善することはほぼ不可能なわけです。今の時代、労働環境を改善できることの方があらゆる面でメリットは大きいでしょう。
指標として成果が見える化しようとしている
労働環境改善に向けて、進捗状況をモニタリングすることが計画に組み込まれています。
何を行うにしても「見える化」は業務効率化やマネジメントの大前提です。見える化されていないのにいくら頑張ったところでそんなものはフィーリングで何となく頑張っているにすぎませんので、そんなものはマネジメントなどとは到底言えません。
具体的にどのような方法で見える化されるのかは不明ですが、できれば経営側だけではなくて従業員一人一人にもこれらの指標が見える化されていることが望ましいと思います。従業員にも見える化されていた方が、従業員一人一人の個別の意識も高まり、目標達成に向けた自発的な行動も促進することができるからです。
上の図の右側部分を見ると、電通が労働時間の削減だけに重点を置いているのではなく、利益額も重視していることがわかりますね。「1人あたりの総労働時間を80%にさくげんしつつ100の成果を目指す」の文章にある「100の成果」とは、労働時間を削減したとしても利益を落とすことはしないということでしょう。
これは企業にとっては非常に重要なポイントです。よく働き方改革の中で労働時間削減の話になると、中には「仕事が終わってなくても定時になったら帰る」みたいなことを言い出す人がいます。でもこれでは本末転倒であり、目指すべきは「定時までに仕事を終わらせること」です。「定時までに帰ること」ではありません。
ここを勘違いした人だらけの集団になって、全員が仕事に対して無責任になってしまってはそんな企業は潰れてしまうでしょう。企業というものは売上・利益をあげていくことを目的とする組織であって、働き方改革や労働時間の削減についても企業の成長のために必要な戦略として位置付けられたものであるべきです。
まとめ
電通が発表した「労働環境改革基本計画」が本当に実現されるかどうかは今の時点ではまだわかりませんが、一つ言えることは電通にとって今はチャンスということですね。悲しいことに企業も人間も平穏に暮らしている時に自分から変わることは中々難しいものです。外部からの圧力や大きなトラブルが発生した時にようやく行動することが多い。アクシアが残業ゼロを実現した時もそうでした。
今回の電通の計画に対して「電通には無理」「現実的な計画ではない」というような声もあるようですが、私はそうは思いませんね。元々電通は超優秀な人達が集まった集団なわけですから、この人達が本気になって取り組めば決して実現不可能などということはないと思います。過労死事件のことで悔しい思いをしている電通の従業員はたくさんいると思いますので、本気になって取り組もうとしている人もたくさんいると思います。
何より電通のような社会的影響力の大きな会社がこの計画にあるような労働環境改善を本当に実現できた時には、その社会的インパクトというものは計り知れません。アクシアのような小さく無名の会社が残業ゼロを実現したこととは訳が違います。
電通がこれを実現できれば、その影響を受けて世の中の働き方改革がさらに大きく促進される可能性も高いと思いますので、今回の「労働環境改革基本計画」には今後も注目していきたいと思います。