SES企業にまつわるその構造的な問題について、私はこのブログやSNSで以前から何度も言及してきています。
人に命令することができる権利というものは本来は強大な権力であり、軽々しく行使できるものではありません。だからこそ業務命令という形で会社から労働者に対しての命令が発生する労使関係に関しては、労基法などの法律によって命令される側が適切に保護されます。
ところが偽装請負が行われると本来行われるべき労働者保護が適切に機能しなくなってしまいます。その結果として労働環境は劣悪なものになっていきやすくなり、労働者に対する保護は消失しつつも、労働者に対する命令だけが残る形となります。
保護はされないけど命令だけはされる。これは現代の奴隷制度と言わざるを得ない。
このように偽装請負が当たり前のように蔓延するSESという形態は問題だらけだということについては、私のブログをご覧になられている方であればご理解いただけると思います。ところが最近では、エンジニアへの還元率の高さを売りにすることがSES企業の中で流行っているようです。
どういうことかと言いますと、SES企業はエンジニアと顧客の間に入り、手数料として中間マージンをピンハネすることを生業としているわけですが、このピンハネ率を競合他社よりも低く設定し、エンジニアへの還元率の高さを売りにするというものです。
私はこのような、還元率の高さを売りにするSES企業に対して、得体の知れない気持ち悪さをずっと感じていました。
この得体の知れない気持ち悪さは何なのか。
還元率の高さを売りにするSES企業に対して、私はずっと前から気持ち悪さを感じていたのですが、うまく言葉に表現することができずにいました。おそらく私と同じようにこのような企業に対して「なんとなく気持ち悪い」と感じている人は多いのではないかと思います。
今回私なりになぜこのようなSES企業に対して気持ち悪さを感じるのか、その理由を整理してみました。
SESがピンハネ率を売りにするのはある意味正しい
SES企業がピンハネ率を売りにすることはある意味正しいです。SES企業は「還元率」のような聞こえの良い言葉をよく使いますが、これはピンハネ率のことを指します。
派遣業界では派遣会社がマージンを取ることをピンハネと呼びますが、SES企業は偽装請負という違法な派遣をやっている企業ですので、派遣会社と同じくピンハネ率は自社の利益に直結する重要な指標です。
SESはこれといった付加価値を何も生み出すことのない企業ですから、間に入られるだけエンジニアからしたら邪魔な存在なわけです。よってエンジニアに対して何かしらの売りを作って、エンジニアに魅力を感じてもらうためにはこのピンハネ率を極限まで下げていくしか本質的にアピールできるものは何もありません。
そういう意味でエンジニアからのピンハネ率の低さ(還元率の高さ)を売りにすることは、SES企業にとってはビジネスとしてある意味正しいのです。
SESがピンハネ率の低さを売りにすることは「ある意味」正しいと言いましたが、「ある意味」と言うからには本当は正しくないと思っているからであって、その理由は後述します。
なぜピンハネ率の低さ(還元率の高さ)を売りにするSESは気持ち悪いのか
ピンハネ率を低くすることは、エンジニアにとっては自分の収入が増えることとイコールです。エンジニアの収入が増えることは良いことです。対外的にも聞こえが良いでしょう。
ではなぜSES企業がこれを言うと気持ち悪いと感じてしまうのか?それは、
SES企業が行っている違法行為に対しての説明責任を一切果たそうとしないから
だと私は考えました。
「還元率高いです」「エンジニアの収入増やします」と聞こえの良いことは言う。ただし自らが行っている偽装請負という違法行為に対する説明責任は一切果たそうとしない。
(違法行為だけどそこには目をつぶって)稼げますよ!お金は大事ですよ!
還元率の高さを売りにするSESが主張することはお金のことだけです。お金が大事。これは認めます。何も異論はありません。でも稼げれば何でも良いのか?と問われれば答えは明確にノーです。
違法行為を認識し、それを続けながら正当化されることなど何もない。
自らの違法行為に対しては一切説明することなく、大義名分を掲げて自らを正当化しようとする。ここに気持ち悪さの根源があるのだと思います。
SESがピンハネ率を売りにするのは本当は正しくないと思う理由
SESがピンハネ率を売りにすることは「ある意味」正しいと冒頭で言いました。ピンハネ率が低い=エンジニアの収入が上がるということで、一見するとエンジニアにとっては良いことだからです。
しかしエンジニアへ支払う給料を還元率で規定するということは、顧客から支払われる単価が上がればその分エンジニアへの給料も上がるわけですが、単価は下がることもあるわけです。
特にプロジェクトが変わったタイミングでは、前のプロジェクトでの評価が高ければ高いほど単価は高くなっていることが多いので、新しいプロジェクトでまだお互いの信頼関係が出来上がっていない場合には、前のプロジェクトにいた時よりも単価が下がることもあります。
エンジニアの給料をピンハネ率で規定するということは、会社が顧客から得る売上単価によって大幅にエンジニアの給料が下がる可能性もあるということです。これは場合によっては労働者にとっての不利益変更となる可能性があります。
今の日本の法律では労働者に支払う給料を簡単には下げられないようになっているんですよね。下げる場合でもあまり大幅には下げられないように決まりがあったりします。だから日本全国の経営者は苦労しているのです。
ところがSES企業が言うように「還元率」でエンジニアの給料が決定されるとすれば、エンジニアの給料が大幅に下がる可能性があるわけで、ここには現状の法律を考えると大きな問題がある可能性があると私は考えます。
労働者の給料を簡単に下げることのできない今の法律が正しいかと言うと、私はこれに関しては否定的な立場です。成果を出せなくなった時にはすぐに給料を下げられるようになっていた方が、逆に成果を出した時には何も躊躇することなく簡単に給料を上げてやることができるからです。今の法律ではそれがやりにくいのです。
ただし私がこうあるべきだと考えることと、法令遵守はまた別の問題です。私が正しいと思ったことでも、別の立場の人からすると正しくないということはいくらでもあります。だからこそルールが必要なのであり、法律があるわけです。
法律は守るものであって、SES企業の(SES企業でなくても)勝手な理屈によって違反して良いものではありません。
まとめ
SES企業は自らの違法行為に対する説明責任は一切果たそうとはせず、一方で大義名分を掲げて自らを正当化しようとするところに気持ち悪さを感じます。
そこにニーズがあるからSESはやっても良いという人もいますがそんなのは全部詭弁です。そんなこと言ったら違法賭博は?違法ドラッグは?全部ニーズがあるから行われているのでしょうが、ニーズがあるからと言ってそれをやって良い理由にはなりません。
何かの理由でSESを行えるように法整備すべきだという議論ならともかく(私は反対しますが)、偽装請負が違法行為でありその問題が解消されないうちはSESを行って良い理由は一つもありません。
開き直ってSESをやっていたり、無知で違法だと知らずにSESをやっているSES企業と比べて、「エンジニアのため」と大義名分を掲げて、自らの違法行為を正当化し、自分達もただの違法業者に過ぎないのに自分達は他のSES企業とは違うんだと主張しているところに、還元率の高さを売りにしているSES企業の気持ち悪さがあるのだと思います。
願わくばこういった企業の甘い言葉にそそのかされることなく、エンジニアの方達が業界の健全化に向けた行動をしてくださることを切に願います。