解雇規制緩和がこれからの時代に必要だと思う理由


解雇規制緩和の是非については度々議論になりますが、このテーマについては賛否両論ありますし、賛成論者と反対論者の間ではいつも中々話が噛み合いません。解雇規制または解雇規制の緩和には、それぞれメリット・デメリットがありますので、お互いの主義主張によっては話が平行線になることには理解もできます。

私としては解雇規制緩和はこれからの時代必ず必要だと思いますし、我々のいるIT業界にとっても解雇規制緩和によるメリットは計り知れないというか、業界全体の生産性を高めていくためには解雇規制緩和は必須という考えです。

解雇規制緩和に反対の人からしても、なぜIT業界が多重下請構造に陥ってしまっているのかその理由に考えを巡らしてみれば、解雇規制緩和については決して無視することのできないテーマなのではないでしょうか。

反対意見もたくさんあることは承知していますが、解雇規制緩和は決して経営者が都合よく労働者を首切りできるようにするという浅い話ではありません。本日はなぜ私が解雇規制緩和が必要だと思うのか、その理由をまとめてみました。

雇用の流動化か、終身雇用か

解雇規制を緩和するということは、転職しやすい社会を作るということです。「解雇」とだけ聞くと今の時代まだまだネガティブなイメージがありますが、本来解雇と雇用は表裏一体でワンセットです。企業が1人解雇するということは、基本的にはその穴埋めのために1人雇用する必要が生じるということです。

もちろん事業縮小による解雇もありますので必ずしも解雇の裏に雇用が発生しない場合もありますが、逆に事業拡大による雇用の裏には解雇が発生しない場合もありますので、必ずしも解雇と雇用が1対1で紐付かないこともあることは当然のことです。

解雇規制を緩和して企業が解雇しやすくするということは、採用してみたけどその企業では成果をあげることができなかった人、その企業とは相性が悪かった人を解雇することができ、代わりにその会社に適正のある人を雇用することができるということです。つまり解雇規制緩和は雇用の機会を増やします。

解雇規制を緩和するということは、雇用の機会を増大させ、労働者が適正のある会社に転職しやすい社会にするということです。つまり解雇規制緩和とは雇用の流動化を意味します。

雇用の流動化と対極にあるものが終身雇用です。今までの日本社会は終身雇用の社会でした。終身雇用が一気に崩れていこうとしているのが今の時代です。

今では批判されることの多くなった終身雇用ですが、これはこれでメリットもあります。終身雇用前提ですので非常に転職することの難易度の高い社会ではありますが、その分、一度就職した会社が定年までずっと従業員の面倒を見てくれるという安心感があります。

この「安心感」というものを甘えだと見る考え方もあると思いますが、行きていく上で会社が生活を守ってくれるという大きな安心感を得られるということは、会社に対する忠誠心も生まれますし、従業員が定年まで辞めないという前提であれば、企業としては教育投資もガンガン行っていけるというメリットもあります。

雇用の流動化と終身雇用には、それぞれメリット・デメリットがありますので、どちらかだけが一方的に優れているということではありません。それなのに雇用の流動化にはこんなメリットがある、終身雇用にはこんなメリットがあると、一部分だけを切り取って考えると議論は平行線となります。

そうではなくて、これから先の社会で、転職がしやすく転職が当たり前の雇用が流動化された社会を目指していくのか、あるいはその逆で、これまでの日本社会のように基本的に一つの会社に定年まで務めることを前提とする終身雇用の社会を目指していくべきなのか、そこを考えなければ意味のない議論になってしまうと思います。

そして繰り返しにはなりますが、雇用の流動化にも終身雇用にもどちらにもメリット・デメリットがありますので、どちらが優れたシステムなのかという議論は平行線となるだけなので意味がありません。

終身雇用の時代であれば解雇規制の意味はあった

これまでの日本社会のように終身雇用前提の社会であれば、企業が簡単に解雇できないように解雇規制を設けることの意味は大きかったと思います。

なぜなら、終身雇用の社会では転職が前提とはされていませんので、転職することには色々とデメリットがありました。年功序列もその一つです。終身雇用と年功序列はほぼワンセットであることが多いですが、勤続年数と共に収入がアップしていく年功序列スタイルでは、転職は不利な条件となってしまいます。

また転職することはネガティブなこととして捉えられてしまうことも多く、これは今でもそういう傾向はあると思いますが、転職回数が多いとそれだけで経歴にとっては大きな傷となってしまいます。

ですので労働者にとっては転職することのデメリットが大きく、企業から簡単に解雇されてしまうと大きなダメージとなりかねないため、強固な解雇規制によって雇用が守られていることの意味は大きかったと思います。

終身雇用では最初に就職する会社で人生が決まるみたいな、一発勝負的な要素が強いため、最初に就職した会社が自分には合っていなかったとしても、その会社で定年まで勤め続けることになります。

就職した会社ではたまたま自分の能力を活かすことができず、他の会社で働けば自分の能力を活かせるとしても、転職せずに就職した会社に留まるのが終身雇用の社会です。会社と労働者の間に多少のミスマッチが生じたとしても、年功序列の名のもとに能力を発揮できない人でもある程度までは出世していく社会です。

終身雇用は能力が会社にマッチしない労働者、成果を出せない労働者であっても、余程のことでもない限りは定年まで企業が労働者の面倒を見るシステムです。そこには生産性を考えるとどう考えても非効率なところもあります。

終身雇用にはそういうネガティブな要素ももちろんありますが、それでも一度就職すればその会社で定年まで労働者の面倒を見てくれるという安心感は、労働者にとっても大きなメリットであったと言えます。

その安心感を守るためにも、終身雇用の時代での解雇規制には大きな意味があったと思います。

解雇規制緩和によって企業は生産性を高められる

解雇規制が緩和されて、その企業では高い成果を出すことが難しい労働者を解雇できるようになれば、企業は生産性を高められるようになります。成果を出せない人を解雇できるようになり、成果を出せる人と入れ替え安くなるので当たり前ですね。

終身雇用だと成果を出せない労働者でも会社全体で抱えて面倒見る必要がありますが、成果を出せない労働者を解雇できるのであれば企業としてはそんなことをする必要はなくなります。

ある会社で成果を出せない労働者でも、他の会社であれば能力を発揮して成果を出せることは普通にあるので、自分にとって適正のある会社に速やかに移動することも重要です。転職や解雇をネガティブなこととして考えるのではなく、自分にとって適正のある会社に移動しやすくなると考えることもできます。

大企業などは特に優秀な人をたくさん抱え込んでいるにも関わらず、従業員の能力を十分に発揮させることができていないようなケースはたくさんあるのではないかと思います。そうした高い能力を持っているのに自社では十分に活かしきれていない人材が、雇用の流動化によって能力を発揮できる会社に移動しやすい社会になることは、社会全体の生産性を考えても大変意味のあることです。

成果を出せない人達を解雇しやすくなれば、当然企業は生産性を高めやすくなるわけですが、これによって割を食うことになるのは、たいした努力もせずに企業にすがってあぐらをかいているだけの社員です。

会社によってはきちんと仕事しないにも関わらず、年功序列によって役職を手に入れて偉そうにしているだけのクソ上司が結構存在するのではないでしょうか。こうした人達を解雇することができるようになれば、企業にとっては生産性向上の効果は計り知れないものになりますが、能力に対して不相応な給料をもらっている労働者にとっては非常に厳しいものとなるでしょう。

雇用の流動化でブラック企業は淘汰されていく

解雇規制が緩和されて雇用の流動化が促進されれば、ブラック企業は必然的に淘汰されていくことになります。

なぜ解雇規制緩和によってブラック企業が淘汰されていくのかと言うと、解雇規制緩和で雇用の流動化が進めば、労働者にとっては気軽に転職しやすい社会となります。そうなれば自分の勤めている会社がブラックだとわかれば、すぐに転職という行動を取りやすくなるからです。

雇用の流動化が進んでいない社会だと、自分の勤めている会社がブラックだとしても簡単に転職先が見つからないかもしれないという恐怖から、我慢して今いるブラック企業に勤め続ける人も出てきます。そうするとブラック企業がいつまでたっても無くならずに生きながらえることになります。

雇用の流動化が促進されて、ブラック企業からどんどん人材が流出するようになれば、ブラック企業は人材不足で存続することができなくなります。雇用の流動化が実現されていない、人材が滞留してしまうような社会は、ブラック企業にとっては従業員が辞めにくい好都合な社会だともっと認識されるべきだと思います。

解雇規制緩和によって高い給与が提示されやすくなる

解雇規制が緩和されれば今よりも高い給与が提示されやすくなります。このメカニズムは一度でも経営側の仕事をしたことがある人であれば理解できるはずです。

今は一度従業員を雇用してしまうと、簡単には解雇できませんし、給与を下げることも容易ではありません。そうすると企業としてはどうしても提示する給与金額を保守的なものにせざるを得なくなります。

なぜなら一度高い給与で雇用してしまって、その従業員が給与に見合った成果を出せなかったとしても、後から解雇したり給与を下げることが難しいからです。採用して最初のうちは成果を出せていたのに、時代の変化と共に後から成果を出せなくなることだってありえます。

そうすると企業としては、雇用した従業員が後で期待する成果を出せなくなってしまった時のことを考えると、どうしても高い給与を提示することが難しくなってしまいます。

それに対して解雇規制が緩和されて、万が一雇用した人が十分な成果を出せない人であったり、後で十分な成果を出せなくなってしまった時には解雇することができる、給与を下げることができるということであれば、企業は安心して高い給与を提示することが可能です。

今は色んな企業が社員に高い給料を提示したいと考えているのに、提示した給与に見合うだけの成果を出してくれなかったときのことが怖くて、保険をかけたような金額提示しかできない状況です。

もちろん解雇規制が緩和されたとしても能力のない人に高い給与が提示されることなどありませんが、解雇規制緩和によって能力が高く成果を出せる人であればあるほど、今よりも高い給与が提示されるようになります。

解雇規制緩和が必要な時代となった

以上のように、終身雇用と雇用の流動化にはそれぞれメリット・デメリットがあるわけですが、今は終身雇用の名残が残りつつも、雇用の流動化も少し進んだ非常に中途半端な状態だと感じます。終身雇用の社会を目指すのか、雇用の流動化された社会を目指すのか、どちらかはっきりさせて、どちらかに振り切るべきだと感じます。

その時に私が雇用の流動化に振り切るべきだと考える理由は、既に終身雇用前提の社会は崩れてきてしまっているというのが一つ理由としてあります。少しずつですが転職することは当たり前となってきており、今の日本はとても定年まで一つの会社に勤めることが当たり前の社会とは言えません。

もう一つの大きな理由は、解雇することが前提の海外企業とも闘っていかなければいけない時代となったことです。まともに働かない人をすぐに解雇できる会社と、まともに働かない人でも解雇できずに給与を払い続けなければならない会社のどちらの方が生産性高く強い企業であるのかは考えるまでもありません。

上で述べてきたように解雇規制が緩和されると企業は高い給与を提示しやすくなりますから、優秀な人材ほど解雇のリスクはあっても高い給与を提示してくれる企業に流れていくことは当たり前です。実際日本人の優秀な人材が、高い給与を提示しやすい外資系の企業に流れていく現象は既に起きているのではないでしょうか。

解雇規制緩和にはメリットもデメリットもありますが、それが良いとか悪いとかではなく、そうしないとダメな人材を解雇して高い競争力を発揮できる海外企業と闘うことがいずれできなくなってしまうのではないかというのが、解雇規制緩和が必要だと思う大きな理由です。

弊社の場合は幸い?にもまだ海外の企業と勝負しなければならないようなステージにあるわけでもありませんが、企業にとっての国の垣根はこれからもどんどん低くなっていくことは明らかです。

そうすれば我々のような中小企業でも、今と比べて海外企業と競合するようなケースはもっと増えてくるはずで、その時に「解雇規制」という時代遅れの重い足かせを背負ったままではまともに闘うことなど不可能なのではないかと懸念しています。

もしこれから終身雇用の方向に振り切るのであれば、冗談抜きで鎖国でもするしか終身雇用で企業が生き残ることは不可能なのではないかと感じます。解雇規制緩和が良いとか悪いとかという話ではなく、時代背景を考えると解雇規制を緩和して雇用の流動化の方向に振り切るしか手段はないのではないかというのが私の意見です。

解雇規制緩和で職を失う人達はどうすれば良いのか

解雇規制を緩和して企業が労働者を解雇できるようになったとしても、解雇と雇用はワンセットなので今と比べて過剰に失業者が増えるようなことはありえません。しかし能力もやる気もなくて解雇されたらどこからも雇ってもらえないような人は出てくる可能性があります。

そうした能力もやる気もない人でも、解雇できないようにして企業に面倒見させようとするのが終身雇用であり現行の解雇規制なわけですが、もうそろそろ企業にそのような社会保障的な役割まで担わせるのは勘弁してほしいというのが私が経営者として率直に思うことです。

失業した時の社会保障は失業保険を充実させるなりベーシックインカム的な制度を導入するなり、国として行っていただいて、社会保障の負担まで企業に担わせるのはやめてほしいです。企業から社会保障の役割を分離するということは、企業の競争力をより強化するためにも必要なことだと思います。

企業が従業員を定年まで面倒見ることが前提の終身雇用であれば、企業に社会保障的な役割までセットで担わせることもありだったのかもしれませんが、時代も変わったわけですので社会保障と企業の競争力とは分けて考えるべきだと思います。

解雇規制緩和が実現すればIT業界の多重下請構造も解消の方向に向かうはず

私が解雇規制緩和してほしいと思う大きな理由に、それが実現すればIT業界の多重下請構造が解消の方向に向かうはずだと考えているのもあります。

IT業界の多重下請け構造とは何なのか

IT業界でSES企業のようなマージンを搾取するだけのピンハネ屋が存続できるのは、ユーザー企業やSI企業にとっても、雇用の調整弁としてSES企業を都合よく使えるという理由があります。というよりも現在の厳しい解雇規制に対応するために、非効率だとわかっていながらも多重下請構造を活用せざるを得ないという側面もあります。

厳しい解雇規制によるしわ寄せが、多重下請構造という形に現れて末端のエンジニア達に全て負担が押し付けられ、エンジニアの境遇を過酷なものにしているという点は否定できません。

IT業界の人間としては私の最も興味のある部分でもあり、IT業界の生産性を向上させるためには(ピンハネ屋が暗躍するだけの)多重下請構造はさっさと壊滅させるべきだと考えているので、IT業界のいびつな多重下請構造を壊滅させるためにも、解雇規制の緩和はぜひ進んでほしいと願っております。

解雇規制が緩和されるだけでも、SES企業に絶大なダメージを与えることができ、IT業界の生産性向上、エンジニアの待遇改善に大きく繋がると考えています。