平成27年特定労働者派遣が廃止され、現在は3年間の経過措置期間中で、今年の9月29日をもって特定派遣は完全に廃止となります。
一般派遣は許可制となっており、許可されるためには資産等の要件をいくつか満たす必要があります。一方で特定派遣は届出制となっており、届け出させすれば事業を始められるので緩い感じになっていました。
中小ITベンダーの多くは一般派遣の許可を得るための要件を満たすことができないので特定派遣の届け出をしているところの方が多いです。その特定派遣がもうすぐ廃止になるということで、これらの中小ITベンダーを直撃するのではないかと言われています。
しかし私はこの特定派遣廃止によって、中小ITベンダーに与える影響は実際にはほとんどないと予想しています。ごく一部では影響出ると思いますが、ほとんどの中小ITベンダーはこれまで通り何も変わらず事業を続けると思われます。
多くのITベンダーの事業は派遣メインではない
特定派遣の届け出をしているITベンダーは多く存在していますが、これらの会社が取り交わす契約形態は派遣契約ではなく準委任契約(SES)がメインです。ほとんどの会社は元々SESメインでやっていますので、特定派遣が完全に廃止になったところでこれまでと変わらずSESで事業を続けていくだけです。
これらの問題を外の人が見た時にわかりにくくしている理由は、派遣契約もSESも実態は派遣だからです。契約書を確認しないことには一体どちらの契約形態が取られているのか判別することができません。
現場のエンジニア達は自分達がどのような契約形態で派遣されているのかわからないまま現場に出向いているという人もたくさんいます。
特定派遣が完全廃止となればこれまで特定派遣でやってきた中小ITベンダーにとっては大打撃であるはずなのに、許可制の一般派遣への切り替えが一向に進まない理由はなぜなのか?
もちろん一般派遣の許可要件を満たすことができないという理由で切り替えができない会社も数多く存在することは確かですがそれと同時に、元々特定派遣は部分的に行っているだけでSESメインなので許可制の一般派遣に切り替えする必要性がないというところも、切り替えが進まない大きな理由だと思われます。
IT業界に多重下請け構造が存続できている理由
多くのシステム開発会社はエンジニアを客先常駐させて事業を行っていますが、その商流は多重下請け構造となっており、末端のエンジニアは5次請け、6次請けと多重下請けの階層が深くなっていることも珍しくはありません。
この多重下請け構造が生まれてしまう理由は色々な要因があるわけですが、少なくとも通常の「派遣契約」が取り交わされているのであれば、派遣法では多重派遣が禁止されていますので、このような多重下請け構造にはなりえません。
ではIT業界の多くの企業がエンジニアを客先常駐させる派遣型の事業を行っているにも関わらず、このような多重下請け構造が存続できている理由は何なのか?その理由はこれです。
IT業界の多重下請け構造の現場では派遣契約以外の契約形態となっている
IT業界の多重下請け構造の存在自体が、そこで交わされている契約形態が派遣契約ではない何よりの証拠です。そこで交わされている契約形態は、一昔前であれば請負契約、最近であれば準委任契約がメインとなっています。
派遣法が適用される派遣契約がメインで使われていないため、エンジニアを客先に常駐させて実質派遣であるにも関わらず、IT業界の多重下請け構造は存続することができています。
特定派遣廃止後もこれまで通りSESが横行する
エンジニアを客先に派遣し客先で他社の人間から指揮命令が行われるという、中身は実質派遣であるにも関わらず契約形態は請負契約や準委任契約で契約されるという偽装請負がこの業界では横行しています。
エンジニア派遣をしているほとんどのIT中小ベンダーはこのような偽装請負に手を染めており、まともな派遣契約で仕事が行われているケースはレアケースと言ってしまっても過言ではありません。
だから特定派遣が完全廃止となっても許可制である一般派遣への切り替えなど進むわけもありませんし、ほとんどの中小ITベンダーはこれまで通りSES事業(偽装請負)を継続していくだけの話です。
よって特定派遣廃止の話は多くの中小ITベンダーにとっては関係のない話ですので、この件で中小ITベンダーを直撃することもありませんし、これまでとほとんど何も変わらずSESが継続されていくものと予想できます。
IT業界の本当の癌は偽装請負を行うSES企業
今度の特定派遣廃止によって、直撃することのある企業があるとしたら全ての契約を法令遵守して派遣契約で行ってきた真面目な企業です。
特定派遣は一般派遣と違って派遣労働者を直接雇用しなければなりませんので、全派遣労働者を直接雇用して、派遣契約によって多重派遣も行っていない企業となれば、もしかするとこれらは優良企業かもしれません。少なくとも偽装請負のような法令違反はしていない企業ということになります。
本来叩き潰さなければならないのはこのように法令遵守して真面目に経営している企業ではなく、偽装請負のようなことを平気で行っているSES企業ですが、残念ながら今度の特定派遣廃止ではこれらの偽装請負SES企業を直撃するようなことはないでしょう。
偽装請負によってエンジニアの権利を搾取し、エンジニアに劣悪な労働環境をもたらすことも多いSESは、日本のIT業界全体の生産性を著しく低下させている業界の癌です。一刻も早く、IT業界からこのような偽装請負企業が駆逐されるような施策が行われることを切に望みます。