今でこそIT業界でSESと呼ばれる客先常駐の働き方の理不尽さをブログ等で主張しておりますが、恥ずかしながら私がSESの異常性をはっきり認識できるようになったのは、株式会社アクシアを設立して少し経ってからのことです。
就職活動の時期も含めてこの業界の会社や人とはたくさん接してきたわけですが、自らがSESにどっぷりと浸かってしまい、他の人から「これ、もしかして偽装請負ではないですか?」と指摘を受けるまでは、客先常駐という仕事のスタイルに特に大きな疑問を抱くこともありませんでした。それが当たり前だと思ってしまっていました。
私自身もそうでしたが、SESというものに対して特に疑問を感じることのないままこの世界にどっぷり浸かってしまう人も多いと思います。そして後になって「こんなはずではなかった」と辛い思いをしている人もたくさんいると思います。
振り返ってみるとこの業界で働こうと決めて就職活動をしていた学生の頃から、SESの世界の端っこには接触していたと思います。しかしながら当時何の知識もない学生だった私にはそんな世界の事情を知る由もなく・・・。
学生時代どころか、自分で会社を作って起業してからも客先常駐という働き方を当たり前のものだと思ってしまっていました。それくらい今のIT業界にはSES(客先常駐)というスタイルがあふれています。
しかし客先常駐という働き方にはやはり問題が多すぎるんですよね。
これからシステム開発の世界を目指そうと考えている方達も何も知らなければいつの間にかどっぷりとSESの世界にはまってしまっていたということがあるかもしれません。
私自身が過去様々な段階でSESの世界に触れることがありながらもなぜそれがおかしいと気付くことができなかったのか、私自身の経験を交えてまとめてみました。これからシステム開発の業界を目指そうとされている方の少しでも参考になれば幸いです。
学生時代に就職活動をしていた頃
今思い返してみると私が学生時代に就職活動で会社説明会に行ったりエントリーしていた会社の中にも、SESを生業としている会社は多数存在していました。しかし当時は客先常駐している会社とそうでない会社とを見分けることなどできませんでした。
その理由としては、企業側がわざわざ客先常駐メインであることなどおおっぴらに説明したりしないからです。普通にどこの会社も「システム開発やってます」と言います。
SESの会社の実態はほとんど派遣会社なのですが、学生向けの会社説明会で「うちの会社は派遣メインです」なんて説明するSES企業は皆無なのではないでしょうか?SES企業をシステム開発会社と位置づけることが完全に間違っていると私は思うのですが、SES企業はどこもシステム開発事業を行っていると言うので区別が付きません。
最近ではインターネットで様々な情報を入手できるようになっていますから、「SES」「客先常駐」「偽装請負」等のキーワードを知っている学生も多いかもしれませんが、そういう用語すら知らずに就職活動をしている学生も多いかもしれません。
サラリーマンとして仕事をしていた頃
私が新卒で入社した会社は今思い返してみても異様なほどの激務の会社ではありましたが、仕事の内容は運良く?元請けに近いポジションで一括請負で仕事をすることが多く、自社で開発を行うことも多くありました。それでも自社開発と客先常駐の割合は半々くらいだったと思います。
その会社が元請けに近いポジションで仕事をすることが多かったため、自社の従業員を他社に要員として送り込むことはあまりなく、どちらかというと他のSES企業からエンジニアを要員として受け入れることが多い会社でした。
しかし当時の私はそうやって他社から送り込まれてくる人達のことを派遣会社から派遣されてきた人としか思っていませんでした。そういうものだと思っていました。
「協力会社」とか「協力社員」のような呼ばれ方をしていましたが、その人達が請負契約や準委任契約で送り込まれてきている人達だなんて知りませんし、当時の私は契約の種類の違い等も全く知識として持ち合わせていませんでした。
たまにホテル宿泊やタクシーで帰宅となった際に、ホテル代やタクシー代が間の会社にピンハネされて自分のところまで降りてこないと嘆いている協力会社の人達の話を聞いて「何言ってんだこいつら」と不思議に感じていたことを記憶しています。
エンジニアを送り込まれる側の会社の一般従業員の中には、当時の私のように法律的な知識など一切なくて、他社から送り込まれてきている人はみんな派遣会社から派遣されてきた人くらいに思っている人も結構いるのではないでしょうか。
当時私は既にIT業界のSESや多重下請け構造に直接接触していたにも関わらず、そういうものの存在に全く気付くことができませんでした。
ちなみに当時の会社は他社のエンジニアを探してきてその人達をまた他社のプロジェクトに放り込むという「The SES」とも呼べるようなことを営業チームが行っていたようですが、社長がそのことをニヤニヤしながら「うちの会社は他社の人間を右から左に流す人身売買も売上の柱の一つなんだよ」と語っていたことが強烈に印象に残っています。
それを聞いても当時何も知らない私は「へえ、うちの会社派遣事業もやってんのか」くらいにしか思うことができませんでした。
フリーランスとして仕事をしていた頃
私の場合、フリーランスと言ってもなんちゃってフリーランスでして、世間のイメージするフリーランスとしての働き方ではなくて、単に客先に送り込まれるけど会社と雇用契約ではなくて業務委託契約を締結するという、まあIT業界ではよくある形のフリーランスをしていました。
私がサラリーマンを辞めてフリーランスとして仕事をすることになったきっかけですが、最初はフリーランスなんて全く考えていなくて普通に正社員の仕事を探して転職活動をしていました。
そして正社員募集の求人に応募して面接に行ってみると、一通りの面接が終わった後に「フリーランスという働き方もあるけどどうですか?」と切り出されました。そこで一通りフリーランスのメリットを説明されて、いずれ起業したいと思っていた私はその通過点としてフリーランスでも別に良いかと、安易な気持ちでその会社と契約することにしました。
その時わかったのですが、その会社は正社員のエンジニア募集を行ってはいたものの、実際に正社員として在籍している人はほぼ存在せず、99%のエンジニアがフリーランスという会社でした。
正社員で求人出しておきながら面接に来たらフリーランスになるように誘導するという問題大アリの手法ですね。
ちなみにフリーランスのメリットを強調する一環として、その会社では経費にしてはいけないものまで経費として計上するという脱税の指南までしていました。そういうのは文書では決して行われません。口頭で行われます。
幸いにして私の場合は顧問税理士の方が正しく指導してくれたおかげで、このSES会社が指南していたような不正な経費計上は行わずに済みました。こういう不正ややり方を自社と契約しているフリーランスの人に指導しているSES企業って結構あるのかもしれません。
そして初めてそのSES企業を通してとある現場のプロジェクトの面接に行く時に、待ち合わせ場所となった秋葉原駅の昭和通り口の前で、次々と間に入っている中間搾取会社の営業に身柄を引き渡されていくという体験をしました。SESで働いたことのある人はこういうのは結構経験しているのではないでしょうか。
そして面接にいった客先では3人の面接担当の方がいたのですが、全員がその客先の会社以外の人で、3人共バラバラの会社の人だったということが後になってわかりました。現場に入ってからも、同じ客先にいてもプロジェクトメンバーがそれぞれ所属している会社は全然違う会社であることや、人によっては間に5社も6社も入っていることなどを知りました。
IT業界の客先常駐・多重下請け構造という形態を実際に認識することができたのはこのフリーランスとして仕事をしていた頃だったと思います。
アクシア設立前後の頃
アクシアを設立しようと準備をしていた頃、とある知人からIT業界でシステム開発の会社をやっているという社長さんを紹介していただきました。会社経営のことなど何もわからなかった私には大変ありがたい話でした。
しかし紹介していただいたその経営者の方から聞いたアドバイスで一番強烈だったものが「従業員なんか基本的に雇っちゃダメだ。全部アウトソーシングしろ。」というものでした。
当時私は一体この人は何を言っているのか意味がわからなかったのですが、今にして思えばこの方も単なるSES企業の経営者で、私がフリーランスの時に契約した会社と全く同じだったということだと思います。
SESという会社はとにかくこういう会社が多いんですよね。自分のところで雇用するリスクは極力負いたくない、だからエンジニアを言葉巧みに説得してフリーランスに誘導しようとするわけです。
私自身は間に5社も6社も入って商流が形成されることに違和感を感じていたため、「エンジニアは自社で雇用しよう」「他社のエンジニアを右から左に流すことはやめよう」というポリシーで会社を作ることにしました。
よってプロジェクトに送り込むのは自社で直接雇用したエンジニアのみの会社にはなりましたが、それでもSESというスタイルに大きな疑問を感じることもなく、もはやそれが当たり前だと思ってしまっていたのでアクシアも会社設立当時はSESの会社としてスタートしました。
当時の私も恥ずかしながらそうだったのですが、客先常駐・多重下請け構造というものがこの業界では当たり前すぎて、問題意識を持っていなかったりそれが悪いことだと全く思っていない経営者は結構多いのではないかと思います。
アクシア設立1年後くらいの頃
私がSESの問題をようやく認識したのは、当時の従業員から「これ、もしかして偽装請負ではないですか?」と指摘されてからです。当時売上も順調に伸びてきていてこれからどんどん会社を育てていこうと思っていた矢先のことでした。
SESが問題だとは夢にも思っていなかった私はそれからSESのことを色々と調べました。しかし調べても調べてもどう考えても偽装請負だし、その社員の言った通り問題のあるやり方であることがわかるだけでした。
また客先常駐であることの問題点もどんどん表面化していた頃でした。
こちら↑の記事には客先常駐開発をやめて良かったことを書いていますが、ここに書いてあることと正反対のことが客先常駐開発のデメリットということです。そういうことが当時のアクシアでも表面化していた時期でした。
客先常駐ってはっきり言って儲かるんですよね。しかもノーリスクで簡単に。ここから完全撤退を決断することは簡単なことではなかったですが、自分が何のために会社を作りたいと思ったのかを考えたら、少なくともエンジニアを喰い物にして金儲けすることではなかったんですよね。
SESの問題を正しく認識して、そこから決別するまでに時間はかかってしまいましたが、幸いにしてアクシアはこうしてSESから完全決別することとなりました。
まとめ
以上のように私自身は学生時代、サラリーマン時代、フリーランス時代、経営者時代と、ずっとSESという業態に触れて生きてきたように思います。しかしSESというものの問題を必ずしも正しく認識できていたかというとそうではありません。
何も知らない学生時代ならともかく、経営者になってからもSESというものがそこまで大きな問題だと最初は思っていませんでした。きっと以前の私と同じように対してSESを問題だと考えていない経営者はたくさんいると思います。
この業界と接していればこれだけたくさん接することのあるSESという世界ですが、その世界を認識すること、またその問題を正しく認識することは必ずしも容易ではないこともあります。これからシステム開発の世界で生きていこうと考えている方達のために、少しでも参考になれば幸いです。