システム開発に限らず、普通は同じ仕事をするなら短い時間で効率よく仕事をした方が原価となる経費が少なくなり、利益率は高くなります。仕事を完了させるまでの時間が長くなればなるほど人件費はかかりますし、残業が発生するとなれば従業員の割増賃金も発生します。仕事をこなすための時間が長くかかって良いことなど何もありません。
だから普通の企業は業務効率化を促進して効率よく仕事としていこうとなるわけですが、客先常駐でシステム開発の仕事をしているSES企業に関して言えばそうはなりません。その特殊な環境が理由で業務効率化へのモチベーションが働きにくい世界です。
ここにも書いた通り、個人的にはSES企業はIT企業としてグルーピングしないでほしいと考えているのですが、この業界の業務効率化を促進して残業時間を短くしていくことを考えてみると、どう考えても客先常駐という仕事のスタイルが業務効率化の妨げとなってしまっています。
SES企業の罪は単に偽装請負をしてエンジニアから搾取を繰り返しているというだけにとどまりません。客先常駐の仕事のやり方はそこで働く人達から業務効率化のモチベーションを奪っていきます。そのあたりのことについてまとめてみました。
SES企業はプロジェクトが炎上した方が儲かってしまう
プロジェクトが炎上すると普通なら利益が少なくなっていき、利益が完全になくなると今度は赤字が大きくなっていきます。それが普通です。それに対して客先常駐のプロジェクトにおいては、プロジェクトが炎上して現場のエンジニアの稼働時間が長くなればなるほどSES企業は儲かってしまいます。
客先常駐プロジェクトの場合は、売上はエンジニアの人月単価で決まります。エンジニア1人当たり月いくらというように契約金額が取り決められています。そしてエンジニアの人月単価にはその前提となる稼働時間が140~180時間というように取り決められます。
140時間~180時間と稼働時間の範囲が決められていた場合、現場のエンジニアの稼働時間が180時間を超えるとそこからは時間精算で顧客に請求することになっていますので、その場合はSES企業の売上はどんどん伸びていきます。
つまり、プロジェクトが炎上して現場のエンジニアの稼働時間が長くなればなるほどSESは儲かります。SES企業はプロジェクトが炎上すると儲かってしまいますので、企業として業務効率化の意識を持つことは中々ありません。
エンジニアにとっても客先常駐の現場で業務効率化の意識は働きにくい
SES企業はプロジェクトが炎上すると儲かってしまいますので業務効率化にあまり積極的になりませんが、エンジニア個人としても業務効率化の意識が働きにくい環境にあります。
SES企業にとって売上を上げる方法は大きく分けて3つです。
- エンジニアの単価を上げる
- エンジニアの頭数を増やす
- エンジニアの稼働を上げる
1のエンジニアの単価を上げるについてはそのままなのですが、エンジニアの単価はスキル以外の部分で決まることも多々あります。スキルに関わらず経験年数が単価に影響することもありますので、経歴詐称のようなことは結構よく行われています。
2のエンジニアの頭数を増やすについては、人件費が増えますから普通は人の数は少なければ少ない方が良いわけですが、SES事業においては仕事の完遂など関係ありません。重要なのは現場でエンジニアがどれだけ稼働したのかであり、それが売上の全てです。だからスキルの低い人でも平気でプロジェクトに送り込まれてくることもあります。
3のエンジニアの稼働を上げるについては、客先常駐の契約形態が月額の人月単価で定められていることは既に書きましたが、エンジニアの稼働が長くなって契約の上限時間を超えると時間で単価を割った金額によって精算が行われます。つまり長く働かせた方が儲かります。
このように全体的に「長く働くこと」によって企業の利益になる構造となっていますので、現場のエンジニアも長く働くと会社は喜んでしまいます。当然長く働いた方が高い評価も得やすくなるでしょう。
一方で現場のエンジニアが頑張って業務効率化を進めて短い時間で仕事できるようになったとしても、それほど褒めてくれる人はいません。それどころかあまり業務効率化を進めすぎて稼働時間が短くなりすぎると、その時は嫌な顔をする人達が結構います。
契約の時間よりも時間が超過すると売上が増えますが、逆に契約の時間よりも時間が少ないと売上が減少します。だからやることが特になくても契約の下限時間を上回るまでは適当に残業するように指示されたりします。
こんな感じなので客先常駐のエンジニア達は業務効率化をしたところで評価もされず、給料も上がらずということになってしまいます。給料を上げる手段は労働時間を長くすることが一番手っ取り早くなります。
長時間残業して残業代を稼ぐというやり方は客先常駐のエンジニアが収入を増やすためには実に理にかなったやり方となります。長時間労働すると頑張っていると会社も褒めてくれますしね。
業務効率化して早く帰りすぎると嫌な顔をされ、ダラダラ働いて長時間労働をすれば残業代は稼げるし褒めてもらえるのであればそちらの方向にモチベーションが向かっても致し方ありません。
もちろん早く帰りたいというモチベーションによって早く仕事を終わらせようと努力しているエンジニアもいるにはいますけどそれは少数派ですし、組織的に業務効率化が促進されていくようなことはまず無いと考えて間違いありません。
まとめ
客先常駐のシステム開発では、業務効率化を進めて短い時間で働くよりも、ダラダラと長い時間かけて働いた方が得する関係者が多すぎることが問題です。
偽装請負という違法行為が行われていることや、エンジニアが搾取され続けていることだけではなく、SES事業では「長くダラダラ働いた方がお得になってしまう」という構造的に致命的な欠陥があります。
この構造的な欠陥を解消しない限りはこの業界が業務効率化の方向へシフトすることはありません。よって業界全体を効率化の方向へ進めるためには、客先常駐という仕事のスタイルを滅亡させることがまず最初にやることだと考えます。