IT業界でシステム開発を行っているエンジニアの数を調べようとしていた時にたまたま面白い資料を見つけました。
2年ほど前で若干古い資料ではありますが、経済産業省のウェブサイトに置いてありました。
2年前ではありますが、この時6割ほどのIT企業が人材不足が続くのは2020年くらいまでと考えていたようですね。従来通りだと景気の変動を考えると妥当だったのかもしれませんが、これからは労働人口がどんどん少なくなっていく時代ですから、これまで通りにはならないかもしれません。
以前、人売りIT派遣企業は壊滅した方が良いという記事を書いて大変な反響(炎上?w)がありました。
今回見つけた経済産業省の資料を読んで、やっぱり人売りIT派遣企業は消滅するべきだと再認識しましたのでそれについて書きました。
人月商売だと価値が下がる
欧米と比較した時に日本の受託開発は、「質ではなく量」の取引になっていることが日本のIT技術者の価値を下げているとこの資料の中で述べられています。
量の取引となっている受託開発とは、言うまでもなく客先常駐の人月ビジネスのことですね。「提供するサービスの価値がこれだけあるからおいくらになります」ではなくて、「これだけの時間労働力を提供するのでおいくらになります」ということです。
価値取引ではないので市場原理が働きにくいというのはたしかにその通りだと思います。全く市場原理が働かないということはありませんが、客先常駐の営業現場では金額に関して何の根拠もなく「高い」「安い」というやり取りがされていることがあります。
サービス提供側(人売り側)がこれくらいの価値があるから値段はこれくらいですと見積もりを出すのではなく、サービス需要側(人買い側)が(何の根拠もなく)値段はこれくらいですと金額指定することも多いと思います。
それよりも何よりも、この資料の中では特に触れられていませんでしたが、間に入って中間マージンを搾取しているピンハネ業者の存在がIT技術者の価値を大幅に下げていると言えるでしょう。
多重下請け構造が必ずしも悪いわけではない
私は客先常駐で多重下請け構造となるのは偽装請負という違法行為の温床になりますし、百害あって一利なしと思っていますが、下請けに出すことそのものに関しては必ずしも悪だとは思っていません。要は各社がきちんと売上分の付加価値を提供できていれば良いのです。
そのことが非常にわかりやすくまとめてあったのがこちら。↓
この図の下側部分が本来あるべき姿の請負構造です。上側部分は現状の客先常駐の構造です。間の業者が単にマージンを抜いているだけの構造です。派遣では明確に多重派遣が禁止されており、ピンハネ業者が入る余地はないわけですが、IT業界では偽装請負という方法でこの隙間に入り込んで不当にマージンを搾取している業者が多数存在します。
一方であるべき姿の請負構造については、こちらも多重下請け構造ではありますが各社がそれぞれ自社が提供すべき付加価値とそのサービスに対する対価が明確になっており、多重下請けとなっていたとしても不当にマージンが搾取されているという構造にはなっていません。
このようにあるべき姿の請負構造に是正されていくべきですが、現状ですと中々違法な客先常駐が取り締まられることがありません。
人月なんて社内で作業工数の見積もりをするための目安単位でしかないでしょう。それなのに人月そのものに金額を付けて顧客に提示する人月ビジネスがおかしいのです。
人売り企業は人材育成を行わない
人売り企業の中にも人材育成を行う企業はあるかもしれませんが、ほとんどの人売り企業では人材育成は行われないようです。うちでは人材育成を行っていると豪語している人売り企業であっても、その実態は人売り企業で多用される専門用語である「OJT」でしかないことも多々あります。
きちんとしたOJTには価値があると思いますが、人売り企業で行われるOJTとはとりあえずどこかの現場にぶちこんでおいてその後は放置プレーという、まるで赤子を崖から突き落とすかのような非常に厳しいスパルタ教育であります。
例によって「受託開発(従来型のみ)」となっている方が客先常駐で人月ビジネスをやっている企業です。人材育成に関して「検討を行っていない」の割合が6割を占めます。人材育成を行っている割合が12%弱ありますが、その中には上で述べたように現場に放り込んで放置プレーにすることをOJTと呼んでうちの会社では教育を行っていると答えている人売り企業も含まれていると思われます。
しかしそれにしても人材育成を行っている割合がたった12%というのは衝撃的ですね。少ないとは思っていましたがまさかここまでとは思いませんでした。こういったことが数値となって表れていて大変有益な資料だと思います。
人売り企業はダイバーシティを実現できない
ダイバーシティとは多様性のことであり、昨今叫ばれている働き方改革において実現しようとしていることですね。労働人口が減少していく中で、これまでのようにフルタイム残業バリバリの人では働けない環境にある人であっても働ける環境を構築し、労働人口の不足を補っていく必要があります。
人売り企業ではこのダイバーシティを実現することが大変困難です。なぜなら人売り企業が行っている人月ビジネスではどうしても長時間労働化しやすい環境となっており、フルタイム残業バリバリが前提となっているからです。
この資料ではダイバーシティの指標として女性比率を参照していますが、受託開発を行っている企業の女性比率は非常に低いことがわかります。女性比率2割以上の会社の比率が全体的に見て3割にも満たないような状況です。
これはやはりシステム開発の業界では残業が多い傾向があることが大きく影響していると思われます。
参考までに残業ゼロであるアクシアの女性比率は5割ほどで、さらにそのうちの半分は育児中の主婦が占めます。残業が少なくなるとダイバーシティは実現しやすくなります。
日本のIT業界を良くするためには偽装請負の撲滅が必要
今回見つけた経済産業省の資料は私には非常に興味深いものでしたが、今回私が一番注目した資料がこちらです。
さっきTwitterにも投稿しましたがとにかくひどい内容です。w
かなり強引でこじつけている部分はあるように思いますが、必ずしも否定できない部分も多いのが悲しいところです。
IT業界に恨みでもあるのかと思うくらいひどい資料ではありますが、今回この資料のどこに私が一番注目したかと言いいますと、それは「公開できない雇用関係」というところです。これは偽装請負のことを指していることは明らかだと思われます。
ということはつまり、少なくとも経済産業省ではIT業界に偽装請負が蔓延していることは認識しているのではないかということが推測されるわけです。
「缶詰状態」というキーワードも、かなり詳細なレベルで客先常駐の実態を把握しているのではないかと見て取れますね。客先常駐の実態を知らないと缶詰状態という言葉は出てきませんからね。
要は国は違法な偽装請負がIT業界で蔓延している事実を知っているのに放置しているということでしょうか。この資料の中にも「偽装請負」なるもののキーワードは一度も出てこないんですよね。何かあまり触れたくないような事情でもあるのでしょうか。
まあでも従来通りの受託開発(人月ビジネス)は変えていかないといけないよということはこの資料の中で述べられているわけで、ダイレクトな言葉が使用されてはいませんが割りと核心を突くことが書かれているようには思いました。
日本のIT業界を良くしていくためにも、そのためにはまずは違法な偽装請負を行っている客先常駐ビジネスを無くし、人売り企業を壊滅させることが必要だという動きが広がっていくことを切に願っています。