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最近では長時間労働が問題となっている話題を聞かないことがないくらいに、今企業の中で真剣に考えていかねばならない問題となってきています。ここしばらくの間だと病院や学校における長時間労働問題がクローズアップされたニュースを見ることが多くなってきたと感じます。

今の世の中の風潮としては「長時間労働はダメだよ」というのが一般的な意見となってきていると言って良いと思います。長時間労働が常態化している企業はブラック企業として批判されてしまうことも度々あり、そうなってしまうと採用にも影響が出てしまう可能性もあります。

そんな中、次のような疑問を持たれている方もいるのではないでしょうか。

好きで長時間働くのがなぜ悪いのか

ダラダラ働きたいとか、残業代を稼ぎたいといった不純な動機ではなくて、純粋に仕事が好きでもっと働きたい!と思っている方も世の中にはたくさんいるはずです。

社会全体の方向性としては、今の時代の流れの中では残業削減の方向へ進んでいくことは正しくて間違いないことだとしても、「仕事が好きで好きでたまらない」「もっと働きたい」と心から願っている人達の働く時間まで抑制してしまうことは本当に正しいのでしょうか?

好きで働いていても法律で定められた時間しか働けなくなる

少し前ですがavexの松浦社長が公式ブログの中で、好きで働いていても法律で定められた時間しか働けなくなる可能性があるようだと述べられています。

労働基準法 是正勧告とは

記事の大半が是正勧告に対する愚痴なのでタイトルはちょっとアレですが、これは残業時間の上限規制について述べられた内容でしょう。

松浦社長のブログのタイトルに「仕事が遊びで遊びが仕事」とあるように、仕事と遊びの境界線がない人の働く時間まで制限してしまうのか?という問題提起ですね。

こういう人達というのは世の中に一定数はいるわけでして、何よりも「仕事が好きである」ということは高いパフォーマンスを発揮するために必要な要素でもあり、こういう人達というのは実際に高い成果をあげることが多いわけです。

確かにこういう人達のように「自分達がやりたいんだから好きにやらせておいてくれよ」という感じの人まで含めて、残業時間上限を一律に決めてしまって良いのかという問題は議論の余地はありそうです。

そもそも労働関連の法律が現状に合っていない?

松浦社長は労働基準監督署が昔の法律のまま今の働き方の現状を無視して取り締まりを行っていることに対しても疑問を投げかけています。

その根拠として、次のように述べられています。

去年9ヶ月間で労働基準監督署が監督指導をした事業場8,500のうち法令違反があると指摘された事業場はどのくらいあるか分かるだろうか。その数は6,500事業場にも及んで、75%以上が何かしらの違反とみなされている状況。

ほとんどの企業で何かしらの違反をしているんだから法律のほうがおかしいだろ!という主張なわけですが、私はこの部分に関しては全くもって同意できません。

法律は放っておくと悪い方向に流れてしまいかねない部分に規制をかけて良い方向に是正していく側面があるわけですから、現状違反している企業が多いんだから法律の方が悪いという理屈はちょっと違うと思います。

IT業界では違法な偽装請負が横行していて、システム開発を事業としている多くの企業が常駐開発のもとに偽装請負が横行しています。

IT業界の多重下請け構造とは何なのか

松浦社長の理屈で違反している企業が多いんだから法律がおかしいなどとは全く思いませんし、法律をきちんと企業に守らせて違法な偽装請負を行っている開発会社はさっさと撲滅させるべきだと思っています。

それに労働基準監督署も暇ではないのですから、全ての企業に均等にチェックに入るわけではなくて、始めから怪しい企業に絞って調査に入るはずです。そうであれば75%という高い数字が出てきても何も不思議はありません。

古くなった法律はその時代に合わせてどんどん変えていくべきという意見には大賛成ですが、多くの企業が違反してるんだから悪いのは法律だろうという意見はちょっと無理がありそうです。

会社の中に病院を作り定期的なメンタルチェックも実施?

会社の中に病院を作ったり、定期的なメンタルチェックを実施したりといったことも松浦社長は述べられていました。

しかしこのことが逆に、長時間労働が当たり前となっていることで無理が生じている部分があることの裏付けであるようにも思います。

本来であれば会社の中に病院を作ったり定期的なメンタルチェックなどしなくても従業員が健康でいられるように労働環境は整備するべきでしょう。

こういうものが必要となってしまっている時点で、好きで働いているんだから長時間働いたって別にいいだろ!という意見に説得力がなくなってきてしまうように思います。

「やりたいこと」はどうしてもやり続けてしまう

「好きで長時間働くのがなぜ悪い」というテーマに対して、産業医の立場からわかりやすく解説されている記事があります。

「好きで長時間働くのがなぜ悪い!」という人に産業医から伝えたいこと

もうこの記事の内容だけで全て答えが凝縮されているのではないかと思うくらいにわかりやすい記事なのですが、この中で産業医の大室正志さんはゲームのドラクエの例を出して「やりたいこと」「好きでやっていること」はどうしてもやり続けてしまう、と述べられています。

私もドラクエをクリアする時は1日23時間くらいやり続けていました。寝てもゲームがやりたいから1時間くらいで目が覚めてしまうんです。他に余計なことをやる時間がもったいないのでまともな食事はとらずにチョコレートだけ食べてました。こんな感じの生活をクリアするまでの数日間続けるので、クリアした後は死んだように眠ってしまい、その後は口の中にたくさん口内炎ができたりして病気になります。

まあ今あげたのは極端な例かもしれませんが、好きだから、やりたいからと言って際限なくやり続ければ必ず体調を崩しますよね。当たり前の話ですけども、仕事を行うプロとして最低限の体調管理は必要であり、やりたいんだから無限に働いていいだろうという主張は違いますよね。

制度というものは弱い人の方に合わせるもの

上の記事の中で「制度というものは弱い人の方に合わせるもの」ということにも触れられています。これは私自身も身にしみて思うところがあり、過去に大きな失敗をしてきています。

私自身はわりと長時間残業には耐えられる方のタイプの人間でした。月の労働時間が300時間超えることが毎月続いていても、それを当たり前のようにして働いていました。でも全ての人がこれを当たり前とできるはずがないんですよね。今考えてみれば当たり前のことなんですが。

私は「自分ができるんだから他のみんなもできるはずだ」と心のどこかで思っていて、自分にできるのに同じことをできない人がいると「なぜできないんだ」と思ってしまっていました。典型的な問題上司です。

世の中には色んなタイプの人がいるのであり、得意なことも苦手なことも全部違います。長時間労働に耐性のある人は間違いなく存在するわけですが、そういう人達に合わせて制度設計していたら間違いなく死人が出てしまいます。実際に不幸な事故が毎年たくさん起きています。

残業上限を月平均80時間にすることに対して「そんなの生ぬるい」という人達がいるのもわかりますし「もっと働かせてくれ」という人達がいるのもわかります。でももっと働ける人に合わせて制度設計してしまうと死んでしまう人が出てきてしまうんですよ。

経団連の「月100時間残業OK」は「過労死OK」と同義語、労働者の命を奪い続けようとする経団連」の記事から表を一つ引用させてもらいます。

過労死の残業時間別労災支給決定件数と割合

過労死の残業時間別労災支給決定件数と割合

これを見てもわかる通り、残業上限100時間、月平均80時間に設定すると、これからも相当の数の人が毎年過労死してしまうことがわかります。この数字を見る限りでは、過労死を本当に無くしていきたいのであれば残業上限を60時間に設定、万全を期すのであれば45時間に設定しないとダメだと思います。

毎月200時間働くことも300時間働くことも全く平気という人からすると「もっと働かせてくれよ」という気持ちはよくわかるのですが、個人としてならともかく組織として長時間労働が良いか悪いかと言ったら「悪い」と言わざるを得ないのではないでしょうか。

好きなだけ働けるようにしてきた結果がこの表の数字となっているわけですからね…。

脳は起床後13時間で集中力が低下する

上の記事の中で「脳は起床後13時間で集中力が低下する」とも述べられています。これについては厚生労働省のホームページにある資料にも記載があります。

健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年3月)

この資料の中で次のように述べられています。

人間が十分に覚醒して作業を行うことが可能なのは起床後 12~13 時間が限界であり、起床後 15 時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下することが示されている

朝7時に目が覚めたとすると、20時頃には集中力が低下してしまうということですね。その後はお酒飲みながら仕事しているのと同じくらいの集中力となっていまいます。

残業時間に対して企業は割増賃金を払わなければならないわけですが、酔っぱらいに割増の高い賃金を払って仕事をさせているようなものなのです。これで生産性が上がるわけがないですよね。

アクシアで残業ゼロを実現してからもしばらくの間、私自身は相変わらず長時間働いていました。急に残業ゼロにしたので社員達の消化しきれなかった仕事のフォローというのも最初はありましたが、その後順調に回ってきてそんなにフォローの必要がなくなってからも長時間働いていました。

その時の心境はまさに「好きで長時間働くのが何が悪い!」です。でも従業員達が残業ゼロで生産性が上がっていく様子を目の当たりにしましたし、それなのに自分が際限なく長時間働くのは違うのではないか?と考え直し、際限なく働くことは今はやめています。経営者ですので労働時間という概念はありませんが、できるだけ短時間の間にメリハリを付けて効率的に働くように意識しています。

裁量権がないと人はストレスを感じ疲れやすくなる

これも上の記事の中で書かれていることですが、人に言われたからやる仕事というのは疲れるんですよね。仕事でも何でも自ら自発的に取り組んだ方が楽しいに決まっています。

そういった意味で経営者の場合は裁量権がありますし、別に人から指示されて仕事をやるわけでもありません。自分で好きで仕事をやっているわけですから、一般の従業員と比べるとストレスは感じにくく疲れにくいということになります。たくさん働いても疲れにくい経営者が超人というわけではなく、そういう立場なんです。

もちろん一般的な従業員でも取組姿勢次第で主体的に仕事に取り組むことはできますよね。上から指示された仕事であったとしても、自分の意志で前向きに取り組むことは可能です。その方が仕事は楽しいですしそうすべきなんですけど、労働環境が整っていない会社の経営者が従業員にこれを言うとブラック企業になります。w

程度の差こそあれ、ほとんどの従業員にはすべてを自分で取り仕切るだけの裁量は与えられていないわけですから、一般の従業員の労働時間に上限を設けるということは必要なことだと思います。そうしないと必ずどこかでストレスに感じて下手すれば鬱になる人が出てきてしまいます。

一般の従業員で「好きなだけ働かせてほしい!」という人に対して、私は常々思っていることがあるんですが、

好きなだけ働きたいなら起業した方がいいんじゃないの?

と思ってしまいます。起業したら全部の裁量があるから誰からも文句言われることなく、法律に縛られることもなく、自由に好きなだけ働けますよ?

リスクがあるから起業はしたくないですか?だったらそんな人に裁量なんか与えられませんから黙って一般の労働者としての労働時間上限を受け入れましょう。w

まとめ

「好きで長時間働くのがなぜ悪いのか」の答えに対して、経営者(または裁量権のある管理職)であれば好きなだけ働けばいいのではないかと思います。

ただし、効率は考えないといけないし際限なく働くのはやっぱり良くないですよねということだと思います。やりたいことはどうしても続けてしまうことや起床から13時間経過すると集中力が低下することを自覚して働く必要があると思います。当たり前すぎることですが一言で言うと「自己管理」ですね。

それにプラスしてアクシアの場合だと企業としての戦略的な側面もあります。残業ゼロのIT企業ということで採用力強化に絶大な効果を発揮していますので、従業員にもその点は企業戦略として理解してもらって協力してもらわねば困るわけです。

残業を減らしたいけど中々現場の従業員に理解してもらえなくて困っているという企業は、なぜ残業を減らす必要があるのかをもう少し丁寧に説明する必要があるのではないかと思います。そうしないと単に人件費削減したいだけだろと批判されてしまうかもしれません。そのあたりは下記の記事も良かったら参考にどうぞ↓

残業が多いと採用が厳しくなる時代がやってきた


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