システム開発会社と呼ばれる多くの企業が常駐開発を行っているのが現状なわけですが、常駐開発そのものが問題だというわけではないものの、ソフトウエア開発の業界における常駐開発はそのほとんどが偽装請負と言わざるを得ず、これにより多くのエンジニアが不当に不利益を被っている状況です。
先日、人売りIT派遣企業は滅ぶべきだというブログを書いたところ、多くのエンジニアの方から共感のコメントをいただきました。それだけ開発現場の最前線で奮闘しているエンジニアの方達の日頃の鬱憤がたまっているということだと思われます。先日書いたブログはこちら↓
多くの共感コメントをいただく一方で、中間搾取をしている会社の経営者と思しき方々から一部否定的なコメントもいただいております。中でも、
準委任契約なら偽装請負にはならないだろ。
的なコメントには残念な気持ちでいっぱいになりました。請負契約による偽装請負に対する締め付けが厳しくなり、SESという意味不明な準委任契約に逃れた日本のIT業界の縮図を現すかのような発言ですね。
準委任契約でも実態が派遣とみなされれば偽装請負ですから。
まあ確かに「偽装請負」という用語のせいで、請負契約じゃなければいいんじゃないの?という誤解を生み出しやい要素があるとは感じますが、そうやって誤解している人に対してはwikipediaの内容が大変よくまとまっていましたのでリンクをはっておきます。
ソフトウエア開発プロジェクトにおける常駐開発はその多くが偽装請負なわけですが、なぜ偽装請負という法的リスクを犯してまでシステム開発会社の社長は常駐開発をやりたがるのでしょうか。先週はエンジニアから搾取している業者に対する怒りから少々激しくブログの記事を書いてしまいましたので、今回は控えめに書こうと思います。w
理由1:リスクが少ない
人売り常駐開発ビジネスというのは非常にリスクが少ない商売です。自社で直接雇用している従業員だけ常駐開発させているのであればまだマシですが、そんな会社も少ないでしょう。多くの会社は他社のエンジニアやフリーランスの人も集めてきてどこかのプロジェクトに送り込んでいます。ひどいところは自社ではエンジニアを一切雇用していないところもあります。
エンジニアを雇用せずに他から集めてきますので、仕事がなくなれば即切り捨てです。不景気になって仕事が少なくなってもエンジニアを切り捨てるだけです。だから常駐ビジネスをやっている会社の抱えるリスクは非常に小さなものとなります。代わりにそのリスクは全てエンジニアにしわ寄せがいきます。
また請負契約と違って現場のエンジニアが残業すればするほどエンジニアが働いた分は時給で精算して売上を請求しますから、プロジェクトが炎上して残業代がたくさん発生しても大丈夫です。むしろその方が儲かってしまったりします。
理由2:売上計画が立てやすい
一度契約が決まりさえすればしばらくのあいだは毎月一定の売上が入ってきますから、何ヶ月も先まで売上計画が立てやすくなります。
請負契約でシステム開発をすると毎月の売上金額にはかなりの波が生じることが当たり前ですが、常駐開発の場合は人月単価での売上になりますから、普通の請負契約による受託開発と違ってかなり売上が安定します。
常駐しているエンジニアがよっぽど多く休んだりしなければ請求する売上金額が減額されることがないように契約内容がなっています。具体的には「月140時間~180時間までは月額いくら」みたいな感じです。この場合だと現場のエンジニアが休みすぎて140時間を下回りそうになると所属会社から怒られたりする場合もあります。
逆に上記の契約内容だとプロジェクトが炎上して180時間を大きく上回る勤務時間となると、その分を時給精算で請求できますから会社は儲かります。こうしてエンジニアは疲弊していきますが、売上が伸びるので会社は残業削減の指導を何もしなかったりします。
理由3:誰でも営業ができてしまう
常駐案件の営業って本当に誰でもできてしまうくらい簡単です。ネットで同じことやってそうな会社を探して電話か問い合わせフォームでコンタクトを取り「人材と案件の情報交換しましょう!」と打診すればだいたいどこもすぐに打ち合わせに応じてくれます。
そのタイミングですぐにマッチングする人材と案件がなかったとしても、お互いに人材と案件の情報をメールで送り合うようになります。すぐに仕事にならなくてもこうやって情報交換できる相手をできるだけ増やすことが常駐開発の営業のコツですから、アポイントはすぐに取れてしまうわけですね。こんなに簡単な営業他にありません。
うちにもしょっちゅうSES営業の問い合わせがきますがやめてくださいね。
SESメインの会社であってもだいたいどこも持ち帰り受託案件もやりたいとは思ってることも多いです。でも持ち帰り受託案件は営業も簡単ではないですし、集客だって簡単ではありません。だから持ち帰りのシステム開発案件をやりたいと思っていても中々できない会社も多いと思います。
理由4:責任が小さい
契約内容が請負契約になっていたとしても中身は偽装請負ですから、成果物に対する責任などありません。こう言うと常駐開発に手を染めてる会社の社長からは「システムが完成するまで責任を持ってやっている」と言うかもしれませんがそういうことではありません。
本来は請負契約であれば、例えば1,000万でシステム開発の依頼を請けたとすると、1,000万で開発しなければなりません。当たり前ですね。プロジェクトが炎上して人件費がかさんだとしても、顧客都合の仕様変更などの理由がなければ追加費用をいただくことはできません。プロジェクトが炎上すればすぐに赤字になります。
でも常駐開発の場合はそうではなく、売上は人月計算ですからプロジェクトが炎上して追加の工数が発生してもその分の請求を行うことができます。まあ元請けの会社は請負契約でやっていたら責任は負っていることになりますが、それ以外の下請けは責任は非常に小さいものとなります。
常駐ばっかりやっていると普通の請負契約の開発案件に手を付けるのは実は結構勇気のいることなんですよ。契約さえ取れてしまえばまず赤字になることのない常駐開発のぬるま湯経営になれてしまうと「失敗したら赤字になるかもしれない」というプレッシャーは半端ないです。
理由5:人材育成が適当でもいけてしまう
中にはもちろんまともな育成をやっている会社もあるかもしれませんが、常駐開発をやっている多くの会社の教育に対する決まり文句は「OJT」です。常駐開発のプロジェクトに放り込んでそこで経験積んでこいというのが彼らの人材育成のオーソドックスなスタイルです。
Javaの開発案件なのにJavaやったことない人をプロジェクトに投入することなんて当たり前のようにありますし、ひどい場合ではプログラム経験ない人がプログラマーとしてプロジェクトに放り込まれてくることだってあります。よくあるパターンとしては新人をプログラム経験者と抱き合わせでプロジェクトに入れてくるパターンですね。
プロジェクト現場ではそれでもプロジェクトを進めていかなければならないわけです。プログラム未経験者がいてもプロジェクトは進めなければなりません。プログラム未経験とまではいかなくてもスキルが低くて戦力にならない人がチームに在籍していることは普通にあります。いろんな会社の混合チームですから、自分の会社だけが気をつけていてもそういう人が入ってきてしまうことはどうしてもあります。
だからチーム内のできるメンバー2割りくらいがほとんどシステムを仕上げてしまうようなことだってあります。できない人の担当分をできる人が全部巻き取って仕上げていきます。全然できない人が混ざるとどうしてもそうなってしまいます。
スキル習得は本人の自己責任の部分も多分にあるわけですが、「とにかくプロジェクトに突っ込むスタイル」が常駐開発プロジェクトではエンジニアが育ちにくい要因の一つになっていることは間違いないと思います。とりあえずスキルが低くてもプロジェクトに突っ込んでおけば売上が上がるので、人材育成がおろそかになってしまいます。
まとめ
他にもあるかもしれませんが、システム開発会社が常駐開発に手を出す5つの理由を見てきました。5つの理由を見てもらうとわかると思うのですが、常駐ビジネスって誰でも簡単にできてしまうんですよね。そこが問題です。
常駐開発ビジネスは無能な社長でもできてしまうんですよ。
もっと言いたいことはありますが、今回は控えめに書くと言ったのでだいぶ控えめに言いました。
無能な社長が多いというのもブラック企業が多い要因の一つでしょうね。エンジニアが独立してまだ会社経営のノウハウが何もない時にやるにはうってつけのビジネスなので、プログラマーとしては優秀だったとしても経営者としては何の経験もノウハウもない人が手を出しやすいのが常駐開発です。
だからといって偽装請負をしてそのせいでそこで働くエンジニアが苦しむことは許されることではありません。創業当時の自分にも言ってやりたい・・・。
現場で働くエンジニアが苦しい思いをすることのないように、偽装請負はもっと厳しく取り締まるべきだと思いますね。具体的にはどんな規制をかければよいのか?というようなことをたまに聞かれることもありますが、今の法律で厳密に偽装請負のチェックが行われればそれで十分だと思います。
そういえば上であげた偽装請負に関するwikipediaのページに、被害者の対応策について書かれていましたね。もしかすると参考になるかもしれません。
常駐開発ビジネスは、無能な経営者だけが楽になるビジネスです。エンジニアは決して楽になりません。しかも偽装請負というおまけ付きです。
自社が常駐ビジネスで偽装請負に手を染めている場合は、会社のトップに「これ、偽装請負でダメなんじゃないですか?」と思い切って聞いてみてはどうでしょうか。
アクシアでは他の会社のエンジニアを右から左に流すことはやったことはありませんでしたが、創業時は自社のエンジニアを客先に常駐させていました。私が常駐開発から完全撤退を決めた時のきっかけも、うちの会社がやってることは偽装請負なのではないかという従業員からの疑問の声があがったことがきっかけでした。
恥ずかしながら私はこの時初めて偽装請負なるものを知ることになったわけですが・・・。フリーランス時代にいた環境が偽装請負だらけで、それが当たり前だと思ってしまっていました。
自社が偽装請負に手を染めている場合は、思い切って会社トップにやめるように提案してみることをお勧めします。もし聞く耳持たず状態だった場合は下記のリンクを参考に。