残業を無くすということはそれまでの労働時間を少なくするということですので、残業をたくさんしていた時のままの売上を維持することは難しいと考える人が多いと思います。アクシアでも残業ゼロに関する話をする時には、残業削減によって売上が落ちなかったのかということはいつも聞かれることです。
私も残業ゼロにする時には生産量(売上)ダウンは覚悟した上で残業ゼロを断行したのですが、実際にやってみた結果は生産量が落ちるどころか、残業まみれだった時と比較して生産量は27%も向上していました。これは当時の私にとっても以外過ぎる結果でした。
取材を受けた時などに私がいつも言うことなのですが、
- 業務効率化によって残業削減する
- 残業削減によって業務効率化する
この2つを比べた時に業務効率化によって残業削減するよりも、残業削減によって業務効率化する方が圧倒的に難易度は低いです。業務効率化によって残業削減することは不可能ではありませんが、業務効率化しただけでは残業はなくなりません。
一見すると残業時間が少なくなると売上が落ちてしまいそうに思えるのに、実際には残業削減によって売上が向上することだって十分にありうることであり、残業を無くしても売上が落ちない理由をまとめてみました。
残業を無くして生産性はどれだけ向上したのか
アクシアでは2012年10月1日から現在に至るまで残業ゼロをキープしてきていますが、毎日終電まで仕事して残業まみれだった2012年9月と、完全残業ゼロを実現した2012年9月の生産量(売上)を比較すると、残業ゼロの2012年9月の方が27%も生産量がアップしていました。
2012年9月までは毎日9時~24時まで勤務で休憩時間を朝と昼1時間ずつ差し引いて13時間、2012年10月からは残業ゼロになって1日8時間の労働時間です。それまで13時間かけて生産していた量と同じだけの生産量を1日8時間の労働時間で維持するためには、生産性が1.625倍にアップしている必要があります。
さらに実際には生産量は27%向上していましたので、生産量のアップ分も加味すると、残業ゼロになってからは生産性が2倍以上に向上していた計算となります。残業ゼロにしただけで生産性が2倍になるなんて嘘だと思われるかもしれませんが、これが実際に計測した数値でした。
なぜか残業ゼロと残業まみれの状態で作業効率が同じ前提で語られることが多い
業務効率化に関するテーマで議論される時に、なぜか残業ゼロの状態と残業まみれの状態を比較した時に、作業効率が全く同じ前提で語られることが多いと思います。業務効率化して作業効率をアップさせることなく残業削減することは不可能だと論じている人はみんなそうです。
しかしどんなに控え目に考えてみたとしても、残業ゼロと同じだけの集中力を維持して高い生産性を発揮することなど、残業まみれの状態でできるわけがありません。残業まみれであるということは、それだけで既に相当非効率な状態に陥っているということです。
それであるならば、残業ゼロと残業まみれの作業効率を同じだと考えることには無理があるということであり、残業まみれの状態と比較すると残業ゼロの状態の方が作業効率が良い前提で考えなければ正しいとは言えません。
残業ゼロの方が作業効率が高くなるということであれば、業務効率化によって残業削減するやり方だけではなく、残業削減によって業務効率化するやり方も当然成立するということになります。残業削減することで確実に業務効率化が見込まれるのであれば、業務効率化によって残業削減するよりも、残業削減によって業務効率化する方が難易度ははるかに低いというのが私の考えです。
残業まみれの状態はどれくらい非効率な状態なのか
人間が集中力を発揮できるのは朝起きてから12~13時間程度が限界と言われており、その後は仕事を続けても酩酊状態と同じ程度の集中力しか発揮できないとも言われています。
そうすると毎日終電まで仕事して睡眠不足の状態で長時間労働している状態というのは、睡眠不足の酔っ払いが仕事をしているようなものだということになりますね。これで効率が上がるわけがありません。
睡眠不足の酔っ払いが、睡眠不足も解消してお酒も飲んでない元気な状態で仕事するようになれば、生産性が2倍になるというのは体感的にも結構現実的なラインではないでしょうか。
実際に残業まみれで非効率な現場は様々な場面で弊害が出て負のスパイラルに陥っていくと思われます。以下、私が経験したことのある事例です。
- 月の平均労働時間が300時間以上で常に疲れた状態で仕事している
- 連続36時間勤務のようなこともありその時は意識朦朧となっている
- 一方で遅刻常習で実質労働時間は短いと思われる人もいる
- 終電がなくなるとタクシーで帰宅するか、ホテルに泊まる
- 中にはわざと終電なくなるまで時間潰してタクシーで帰るような輩も現れる
- 食事の時間は長くなる傾向がある
- トイレに行くと中々帰ってこない人が増える
- 精神的に病んでプロジェクトから離脱する人が増える
- 人員を補充しようとしてもまともな人が補充されてこない
- 自分の体に様々な異常が生じても異常だと気づかない
- 部下が帰らないように上司が入口付近の席に座り監視している
- 上司の目を盗んで帰宅しても、終電がなかろうが関係なく会社に招集される
今にして思えばこんなのもうほとんど重病人が仕事しているのと同じですから、集中力を発揮することなどできるわけがありません。
この状態から業務効率化をして残業削減につなげていくには果てしなく長い道のりになってしまいますが、とりあえず残業時間に上限規制を設けて労働時間を削減し、しっかりとした睡眠時間、休息時間を取れるようにして集中力を高め、業務効率化を実現することはすぐにでもできます。
業務効率化に関する様々な取り組みをしてきているが中々残業削減の成果につながらずに悩んでいる方は、発想の転換でまずは残業を先に減らしてみてはいかがでしょうか。
人間は適度な休息を取ることで初めて最高のパフォーマンスを発揮できる
人によって1日何時間まで高い集中力を維持できるのかは個人差があると思いますが、ごく限られた一部の天才を除き、我々のような凡人にはあまりにも長い時間にわたって集中力を維持することは不可能です。集中力をキープして高いパフォーマンスを発揮するためには適度な休息が必要です。
長時間残業している人達に対して「もっと頑張れ」と言うのは、学校の部活でバカな監督や先輩が無駄に何十周もグランド走らせるのと同じようなものだと思います。延々と走らされても疲弊していくだけで早く走れるわけがありません。適度に休むから早く走れるのです。
残業を増やすという物量作戦ではなくて、時間あたりの生産性を高めていくという「質」に焦点を当てて考える場合、適度な休息を取ることは最高のパフォーマンスを発揮する上で必要不可欠です。
業務効率化を進めたい、残業削減を進めたいと考えているのであれば、質に焦点を当てて常に最高のパフォーマンスを発揮できるようにすることを考えるべきです。そのためには適度な休息をとらせる=残業を少なくすることも絶対に必要です。
残業ゼロになって売上も伸びたと話をしても中々信じてくれない人は結構います。でも実際に残業ゼロを実現してきた私から言わせれば、残業まみれで最高のパフォーマンスを発揮できるわけがないので、そんなの当然本来よりも売上落ちるよねとしか今は思いません。
でも私も残業なくして売上が上がるという現象を自ら体験するまでは、残業削減して売上アップなど信じられなかったので気持ちはよくわかるのですが・・・。