システム開発の会社はできる限り教育コストをかけるべきではないということで、こんなことを書くと多分怒る人がいるのだろうなと思いますが、経営者として様々な観点から論理的に考えれば考えるほど、システム開発会社はできる限り教育コストをかけない方が良いという結論に至ります。

アクシアではこれまでプログラミング未経験者の採用も行ってきており(今は行っていません)、経験者であっても必要があれば入社後に十分な教育を行ってきているわけですが、教育しなくてすむならしない方が良いというところが経営者としての本音です。

別にお金をかけたくないとかそういう次元の低い話ではなく、合理的に突き詰めて考えていくとその方が開発会社を運営していく上で都合が良いのです。異論・反論あるかもしれませんが、最後までお読みいただいてからご批判いただければ幸いです。

せっかくお金をかけて人材育成しても他社に奪われてしまう

一般論として教育に投資は行った方が良いという点については議論の余地もなく正しいです。お金をかけて投資してでも人材育成が行われた方が、将来的なトータルのリターンが大きくなるからです。

ただし少し前までの時代と比較して大きく変わった点として、終身雇用の時代が終わりを迎えつつあるという点があげられます。これは企業が人材育成を考える上で非常に大きなポイントと言えると思います。

一度雇用したら定年退職までその会社で勤続する前提であれば、企業はできる限り人材育成に投資するべきでしょう。投資すればするほど後々リターンが大きくなるからです。

しかし今はもう終身雇用が前提の時代ではなくなりました。企業がどれだけ人材育成に投資をしたとしても、簡単に会社を辞めて転職してしまう時代です。そうすると人材育成のために大金を投資したとしても、投資した分を全く回収できることなく辞められてしまうというリスクを企業は常に抱えることになります。

終身雇用が良いとか悪いとかいう話ではなく、時代背景がもう既に転職を前提とする時代に変わったということです。前提条件が変わったのであれば、経営側としてもそれに合わせてやり方を変えていくことは当然のことです。

人が辞めないことが前提であれば最大まで投資は増やせば良いですが、投資だけして回収できずに辞められてしまってばかりでは企業経営が成り立たなくなってしまいます。

エンジニアのスキルは会社固有のものではなく汎用性のあるもの

技能にはその会社で通用しない会社固有のものと、世間一般で通用する汎用性の高いものとがあります。エンジニアのスキルはそのほとんどが特定の会社でしか通用しない固有のスキルではなく、他の会社に行っても通用する汎用性のあるスキルとなります。

会社固有のスキルについてはその会社で育成して習得させるしかありません。例えばマクドナルドのハンバーガーの作り方なんかは習得しても他の飲食店に行ったら全く何の役に立ちません。

一方でエンジニアのスキルのように汎用性のある技能については、一度習得すれば他社に行っても通用するスキルとなりますし、習得方法についても「会社で育成する」という手段以外に「エンジニアが独自に習得する」という手段もあります。

エンジニアは自分の市場価値を高めたいのであれば、自分が所属する会社固有のスキルではなく、世間一般で通用する汎用性の高いスキルを習得しないといけません。会社固有のスキルを習得したところでその会社を退職してしまったら何の役にも立たなくなってしまうからです。

一番経済合理性があるのは他社がお金をかけて育てた人材を奪うこと

転職が当たり前の時代においては、せっかくお金と時間をかけて人材育成しても他社に奪われてしまうリスクが常にあります。そのリスクを取りながら人材育成していかなければならない場面も当然あるわけですが、転職が当たり前ということは何も手塩にかけて育てた人材が自社から流出するだけではありません。他社がお金をかけて育てた人材を獲得できる可能性もあります。

そうすると優秀な人材を獲得するために最も経済合理性があるやり方とは、自社で時間とお金をかけて人材育成することではなく、他社がお金をかけて育てた人材を奪うことということになります。

「自社で育てること」と「他社から奪うこと」を比較した時には、他社から奪うことの方がはるかにアドバンテージがあります。

例えば仮に500万の売上をあげられるエンジニアを育成したとします。そしてそのエンジニアを育成するコストが200万かかったとして投資分を回収するためにそのエンジニアの年収を300万に設定することになったとします。(単純にこうはなりませんがここでは単純計算で考えてください)

ところが自社ではお金をかけずに、他社がお金をかけて育てた人材を奪うことにした場合、同じく500万の売上をあげられるエンジニアに対して育成コストを回収する必要性がありませんから、このエンジニアに対して最大500万の年収設定をすることができてしまいます。

育成コストを回収する必要のある自社育成のケースと、育成コストの回収の必要がない他社から奪うケースとを比較すると、絶対に育成済みの人材を他社から獲得した方が経済合理性があるのです。

どれだけの給与を設定できるかについてはその企業の収益力など様々な要素が絡んできますが、他の全ての条件が同じであれば、教育に投資していない他社と給与設定の争いをしたとしても論理的には「絶対に勝てない」となります。

そうすると自社で人材育成するよりも他社が育てた人材を奪った方が安く済みますし、エンジニアに対しても高い給料を提示できるということになります。

企業に魅力がないと他社が育てた人材を奪うことはできない

なるほど確かに自社で育てるよりも他社が育てた人材を奪った方が合理的だということで、今後は一切自社での人材育成はやらない!とブラック企業が喜びそうですが、物事そんなに都合よく話は進みません。他社がお金と時間をかけて手塩にかけて育てた優秀な人材を奪おうと考えたとしても、企業に魅力がなければ他社の優秀な人材を奪うことはできないからです。

他社がお金をかけて育ててくれた人材を奪えるようにするためには、その企業に何かしらの魅力が必要です。その魅力とは「給料が高い」ことでも「労働環境が良い」ことでも何でも構いませんが、エンジニアがその会社で働きたいと思ってもらえるような何かしらの魅力は絶対に必要です。

他社が育てた人材を奪えないのであれば自社で投資して育てるしかありません。ただしその場合は育成のための投資が必要となりますし、終身雇用が崩壊した今の時代ではそれは常に育てた人材を他社に奪われるリスクを抱えることになります。

自社が自らコストをかけて育てた人材というのは、育成コストを負担していない他社にとっては奪いやすい存在です。頑張って高めの年収を提示したところで、育成コスト回収の必要のない他社はもっと高い給与を提示できてしまうからです。

他社の優秀な人材を奪えるだけの魅力がその企業に不足しているのであれば、給与水準を上げたり労働環境を改善するなど、魅力を作るために何かしらの投資が必要となるでしょう。

教育は大事だがそれよりも大事なのはエンジニアが働きたいと思える環境づくり

終身雇用が崩壊しつつあり、自社でコストをかけて人材育成することには回収できなくなるリスクが高まったとはいえ、それでも事業を行っていく上で必要な教育はやるべきですし、ある程度のリスクを取ることも必要だと思います。

しかし自社で育成するよりも他社の人材を奪う方が経済合理性が高いのであれば、教育は大事だがそれよりも大事なことはエンジニアが働きたいと思える環境づくりです。他社のエンジニアにこの会社で働きたいと思ってもらえる環境を作ることで、他社がお金をかけて育てた優秀な人材を奪える可能性が高くなります。

他社が育ててくれた人材を奪えるだけの何かしらの魅力を獲得することのできた企業は、自社で投資しなければならない教育コストを下げられるようになりますので、その分エンジニアに対して高い給与設定がやりやすくなります。

そうするとますます優秀な人材を集めやすい企業となっていきますので、自社で人材育成しなければいけない企業よりも他社から人材を奪える企業としてのポジションを目指していった方が、システム開発の会社としては懸命な選択なのではないかと思うのです。

「教育=善行」のようなイメージが何となくありますが、以上の通り合理的に考えてみた結果、教育コストに関してはできる限り投資しなくて良い会社にしていきたいというのが私の本音です。

それよりもエンジニアが働きたいと思えるような環境を作るところに重点的に投資していくことが、システム開発会社として生存競争を勝ち抜いていくためには重要なことではないでしょうか。