アクシアでは元々客先常駐の仕事メインで会社をスタートさせましたが、客先常駐のシステム開発の違法性(偽装請負)を認識し、その他様々な弊害を感じて客先常駐の仕事からはすぐに完全撤退することになりました。
客先常駐の仕事がメインだった頃にはあまり重く認識できていなかった問題が「残業」に関する問題です。客先常駐だと残業まみれになればなるほど会社としては売上が伸びてしまうというおかしな事態となってしまいますので、リアルな経営の問題として捉えることができていなかったというのが正直なところです。
それが客先常駐の仕事からは完全撤退して持ち帰りの受託開発の仕事に切り替えてからは、残業が経営上のリアルな問題として浮上してきました。当たり前のことですが請負契約ではシステムの受注額は決まっていますので、業務効率化すればするほど利益率が良くなります。逆に非効率な進め方ばかりしているとあっという間に赤字に転落してしまいます。
そういった意味でもIT業界でシステム開発を行っている企業が残業に対して正しく問題意識を持って改善していくためには、まずは客先常駐の仕事から手を引くところがスタート地点となると思っています。
アクシアで残業に対する問題意識を持ち始めて具体的に取り組みを開始したのが2009年頃からで、残業ゼロとなる2012年までには3年ほどの時間を要してしまったわけですが、残業まみれだった時のことを思い返してみると、色々と激しく誤解をしていたことがあります。
今、長時間残業の問題に苦しんでいる経営者の中には以前の私と同じように残業にまつわる問題を誤解している方もいるかもしれません。残業ゼロになってみてわかった、残業まみれだったころに私がしていた誤解についてまとめてみました。
誤解1:従業員の意識が低いから残業が多いと思っていた
当時の私は残業が多い原因の一つは従業員の意識が低いからだと思っていました。しかしこれは誤解です。従業員の意識が低いから残業が多いのではなくて、残業が多いから従業員の意識が低かったのです。
ブラック企業の経営者が「熱意」とか「やる気」とか、やたら精神的な主張ばかりする理由には「従業員の意識が低い!」という意識が経営者の中にあるからかもしれません。しかし残業まみれで心身ともに疲弊した状態で高い意識をキープすることは並大抵のことではありません。普通の人にはまず難しいことでしょう。
残業ゼロになってから大きく変わったことは「従業員の意識」を気にする必要がなくなりました。残業ゼロになれば「従業員のやる気」に頼る必要など全くなくなりますので、自然とそれを気にするようなこともなくなりました。
従業員のやる気に頼らなければいけないような状況や仕組みがおかしいのです。従業員のモチベーションを気にしてばかりいたあの頃がバカらしいです。
誤解2:品質が悪いから残業が多いと思っていた
当時は今と比較して相当成果物の品質が悪く、日々のプロジェクトでは戻り作業が頻発し、バグにまみれた生活を送っていました。最初から品質高い状態で仕事をして戻り作業やバグ対応を減らすことができれば残業を減らすことができるはずだと考えていました。
これは一見正しそうに見えますが実際は違いました。これも品質が悪いから残業が多いのではなくて、残業が多いから品質が低くなってしまっていたのです。
人間には集中力の限界というものがありますから、質の高い仕事を維持するためには労働時間の限度というものがあります。高い品質を維持するためには適度な休息を必要とします。適度な休息によって高い集中力を発揮することが可能となり、結果として仕事の品質も高まります。
睡眠不足で心身ともに疲弊しきった状態で高い品質を維持することなど人間には不可能でした。高い品質を維持したければまずは長時間労働を解消して従業員の心身の健康を確保し、集中力を発揮して仕事ができる状況を作る必要がありました。
誤解3:生産性が低いから残業が多いと思っていた
残業が発生してしまうのは従業員の仕事が遅いからだと思っていました。もっとスキルを習得して仕事を早く進めてくれるようになれば残業は減らせるはずだと思っていました。だから従業員には「もっと勉強しろ」と当時は言っていました。勉強するための時間は与えていなかったというのに。
そしてぼけーっとしている従業員を見つけてはもっと集中して生産性を高めるように注意していました。そんなんだからいつまでたっても残業がなくならないのだと憤っていました。しかし長時間残業で集中力をキープできるわけもなく、当時の私がいかに理不尽であったかと今になって思います。
これももうおわかりかと思いますが、生産性が低いから残業が多いのではなくて、残業が多いから生産性が低かったのです。
残業が多い状態では成長意欲のある従業員でも満足に勉強時間を確保することも難しいですし、長時間残業の中では集中力を発揮して高い生産性を維持することなど不可能です。残業がなくなってからは趣味でサーバーやシステムを構築している人もいるようですし、十分な休息が取れるようになったので高い集中力をもって仕事に取り組めるようになりました。
誤解1~3あたりは「鶏が先か、卵が先か」みたいな問題に見えますが、残業に関して言えば間違いなく「残業をなくす方が先」です。経営者はつべこべ言わずに残業を削減して労働環境を改善することが重要です。
誤解4:従業員と会話すれば不満を解消できると思っていた
長時間残業によって様々な弊害が出てしまい、従業員の不満もたまっていく一方だった当時、私は従業員とのコミュニケーションの密度を高めることによって従業員の不満を解消しようと考えました。飲み会や面談の頻度を増やすという、ブラック企業経営者がよくやるアレです。
もちろんコミュニケーションは重要な事ではあるのですが、劣悪な労働環境という根本的な問題を解決しないまま小手先のテクニックを駆使して従業員とコミュニケーションを増やしたところで、従業員からは「何言ってんのふざけんなしね」と思われるだけです。火に油を注ぐようなものですね。
「労働環境の改善」という目の前の大きすぎる壁にぶち当たり、そこから目を背けたいという気持ちは私もよく理解できるのですが、本質的な問題から目を背けて小手先のテクニックを駆使したところで問題は何も解決しないどころか、下手すれば逆効果にさえなってしまいかねません。
当時の私は「従業員としっかり会話できれば不満を解消できる」と大いなる勘違いをしてしまっていました。
誤解5:お客様は神様だと思っていた
長時間労働が常態化していた当時は、お客様は神様だと思ってしまっていました。顧客が望んだことであれば少々無理や理不尽があったとしても、全力で応えようとしてしまっている自分がいました。
顧客の要望に全力で応えること自体は悪いことではありません。しかし我々はボランティア活動ではなくてビジネスをしているわけですので、サービスを提供するためには相応の対価をいただかなければなりません。
それにお客様は神様ではなくて普通の人間ですので、時には間違いをすることだってありますし、人間の弱さが出てしまって発注先に理不尽なことを言ってしまうようなことだってあって当たり前です。そういう理不尽な顧客の要求に直面した時に「お客様は神様だ」と考えてしまうことは極めて危険なことです。理不尽なことを言われた時にはそれは間違ってますよ、それはできませんよということをきちんと言わなければなりません。
そんな当たり前のことに気づくことすらできずに「お客様は神様だ」と勘違いして何でもかんでも顧客の要望を受けてしまい自分たちの会社がどんどんブラックに染まっていってしまいました。
お客様は神様ではありません。理不尽な要求は毅然と断りましょう。
誤解6:労働時間減少=売上減少だと思っていた
これは多くの経営者が恐れていることではないかと思いますが、「労働時間減少=売上減少」だと思いこんでいました。働く時間が短くなればそりゃ売上も落ちるよねという至って普通に思える考え方です。経営者としては会社の売上が落ちることはやはり怖いことです。だから気軽に残業削減などできません。
2012年に私が「明日から残業禁止」と腹をくくった時にも売上が大幅に落ちることを覚悟した上での決断でした。毎日終電まで仕事していたのにそれが1日8時間労働に急変するわけですから、今まで消化していただけの仕事量をこなすことなど不可能だと思いこんでいました。
しかし実際には売上は増加。残業まみれの2012年9月と残業ゼロの2012年10月の生産量を比較してみると、なんと27%も生産量が向上していました。生産性ではなくて生産量だという点に注意してください。労働時間は大幅に減ったので細かく計算してみると生産性は2倍以上に向上している計算となります。その辺の計算式は下記のブログにも書きましたので良かったらご覧になってください。
もちろん業務効率化は非常に重要なことで必要なことですが、毎日終電というような状況の中ではその時点でフルパフォーマンスを発揮することなど無理になります。相当非効率な常態で仕事していることになりますので、残業削減することによって時間あたりの生産性が飛躍的に向上し、かえって売上が増加することだって十分ありえることなのです。
現時点で始業から終業まで100%のパフォーマンスを発揮できている場合には「労働時間減少=売上減少」が成り立ちますが、現時点のパフォーマンスが100%ではない場合は「労働時間減少=売上減少」は必ずしも成り立ちません。
誤解7:心のどこかでシステム開発で残業削減は無理だと思っていた
アクシアが残業ゼロを実現したというお話をすると、よくある反応として「うちの会社には無理ですね」「我々の業界だと無理ですね」というものがあります。みんな自分たちの会社や業界は「特別」だと思っているのです。
かつてはアクシアもそうでした。そうやって言い訳してきました。IT業界では残業が多くて当たり前、システム開発のプロジェクトで残業削減など無理、残業削減できるほど自分達の仕事はあまくないと思っていました。どれもダサすぎる言い訳です。
マスコミ業界の人達は「自分達の業界は特殊な事情があるから残業削減は難しい」と言います。医療業界の人達も「自分達の業界は特殊な事情があるから残業削減は難しい」と言います。
みんななぜか自分達の会社や業界は特別で特殊だと思っていることがあるのですが、実際に本当に特殊な会社や業界などどれだけ存在するのでしょうか?ほとんどの業種は世界のどこにいっても存在する仕事であり、日本のどこに行っても同じような会社が存在するのではないでしょうか?自分達だけが特殊だというのはほとんどの場合は妄想です。
就職活動の時から企業説明会で「システム開発の仕事は残業が当たり前」と叩き込まれてきて、実際に残業まみれの世界を経験してきたのでそれが当たり前と思いこんでしまっていましたが、それは全くの誤解でした。
アクシアが残業ゼロを実現できたことは、アクシアが特別だったわけでもなく私が優秀だったわけでもなく、結果的に運が良かった部分が多分にあるわけですが、実際に残業がゼロになってみて見えてくることもたくさんありました。今回のブログでは残業がなくなる前と後で、私の中で考え方がガラッと変わった部分をまとめてみました。これから残業削減を目指していこうと考えている方の少しでも参考になれば幸いです。