新国立競技場の作業員自殺のニュースをここ数日多く見かけるようになりました。
五輪・新国立競技場の工事で時間外労働212時間 新卒23歳が失踪、過労自殺
この事件が起きた時は以下のような状況だったようです。
- 長時間労働(月200時間)
- 1日平均2~3時間程度の睡眠
- 残業を80時間以内に収めるように指示
- 現場作業員が突然失踪
システム開発の世界でずっと働いてきた人間としては、まるで自分達の業界のように思えてなりません。それくらいIT業界にも同じような状況が見受けられます。我々の業界としても決して他人事ではなく、このような事件が起きる前に変えていく必要があります。もういい加減いつまでも社畜自慢をしながら自虐ネタを楽しんでいる場合ではありません。
繰り返される仕様追加や仕様変更
新国立の作業現場では予定になかった仕様追加や仕様変更が繰り返されていたようです。
どの業者の職員たちも『まれに見る(ひどい)現場だ』と、2~3時間前に決まっていたことが変わっている。(元請けから)突然、予定にはない場所に『あそこ急いでやってもらわないと本当に困るから、ちょっと移動してすぐにやってくれ』(と言われた)。(現場監督は)前の日に作ったこと(計画)が2時間後に話が変わって、また新しく作り直して。まぁ嫌になりますね
システム開発においてもこれと全く同じようなことはよくありますね。
弊社では仕様追加や仕様変更が発生する際にはお金とスケジュールを顧客に負担していただきますし、然るべき負担をしていただけないようなブラックな顧客とは取引しません。
しかし顧客を失うことを恐れ、顧客からの強いプレッシャーに耐えることができず、無償で仕様追加や仕様変更に応じてしまっている開発会社は数多くあります。客先常駐の現場などはこんなことばかりですよね。
あたり前のことなのですが仕様追加や仕様変更にはきちんとお金をいただかないとダメです。これを無償でやってしまうから顧客側も初期段階で真剣に検討することを怠るんですよ。問題があっても後で変更すればいいやと思ってしまう。顧客を職務怠慢にさせている要因の一つには安易に無償対応を受け入れてしまうということがあります。
結果的に仕様変更が無駄に繰り返されてしまい非効率な状態に陥ってしまします。そうなってしまうと顧客側も受託側も何も得しません。よって安易に仕様追加や仕様変更を無償対応で受けるべきではありません。
上流工程遅延による下流工程へのしわ寄せ
wikipediaによると新国立競技場の工事着工は当初2015年10月に予定されていたものが、1年以上遅れて2016年の12月に着工となったようです。着工は遅れましたがオリンピックの開催予定が変わることはありませんから、完成を遅らせるにも限度があります。
このように上流工程の遅れによって下流工程にそのしわ寄せがきてしまうということは、システム開発の現場でもよく起きていることですね。要件定義や基本設計のスケジュールが遅れに遅れ、普通なら遅れた分だけシステムの完成も遅らす必要があるところを、最終的な納期はそのままにしろと。
上流工程だけ自社で請け負い、下流工程は下請けに外注する方針でも別にいいんです。ただし自分達が遅延させたのにそのツケを下流工程を担当する外注先に負わせるのは理不尽です。下流工程には下流工程で必要となる開発期間というものがあります。上流工程の予定が遅れたからその分は下流工程を短縮しろというのは無茶ぶりにも程があります。
仮に要件定義に1ヶ月、設計・開発に3ヶ月を想定していた場合はトータルのシステム開発の期間は4ヶ月となりますが、顧客側で提示すべき情報が出てくるのが遅れたり検討に時間がかかったりして、要件定義に3ヶ月かかってしまったとすると、当然のことながらトータルの開発期間は6ヶ月にスケジュールを見直す必要があります。
しかしながらおかしなことに、顧客側の責任による遅延で要件定義に3ヶ月かかったとしても、トータルの開発期間は当初の予定通り4ヶ月でやれと豪語する顧客はいますよね。そんなものを受けてしまえば本来3ヶ月を予定していた開発を1ヶ月で行わなければならなくなるわけですから、あっという間に見事なデスマーチの完成です。
新国立競技場の場合はオリンピックというイベントが控えているわけですから最終的な完成時期をオリンピック開催時期よりも遅らせるなんてことは絶対にできません。だからこそスケジュールには相当余裕を持たせておくべきでしたし、上流工程での遅延にはもっと危機感を持つべきでしたね。
多重下請け構造の問題
建設業界ではIT業界と同じく、多重下請け構造の業界と言われていますね。今のところ私は報道されているものを見かけませんが、IT業界と同じ構造であるならばIT業界と同じ問題が起きている可能性が高いと予想できます。
これはIT業界の現状から見た私の想像でしかありませんが、新国立競技場の現場では偽装請負が横行している可能性が高いのではないでしょうか。
だとすると作業現場では自社以外の人から指揮命令されることがあり、その場合は適切に労務管理が行われない可能性が高くなります。従業員の長時間労働の問題や健康管理の問題について、どこの会社が責任を持つべきなのかが曖昧な状態となり、明らかに問題が生じていてもどこの会社も解決しようとせず、そのまま労務管理上の問題が放置されてしまっているのかもしれません。
建設現場で作業が行われ、そこでは元請けの会社が指揮命令しているのであれば、派遣契約として明確に派遣先企業に労務管理上の責任を負わせるべきではないかと思います。
残業上限規制は建築業界では5年間猶予
残業時間の上限を最大100時間未満とする罰則付きの法律がもう少しするとできる予定となっていますが、建築業界では5年間猶予されることが予定されているようです。これはオリンピックの工事で人手不足が予想されるからです。
電通の過労死自殺事件を受けて、労働者の命や健康を守るためには残業上限規制は必要だけど、どうしてもオリンピックまでは人手が足りないから見逃してくれよってことです。
命や健康よりも優先させるのかよという思いはありますが、オリンピックというイベントは待ってはくれませんから言ってることはわからなくはありません。でもこれは何をいまさらといった感じはしてしまいます。↓
塩崎厚生労働大臣が建築工事に関わる約800の企業の労働時間を調べて、問題があれば厳しく是正するとおっしゃっていますが、もうこんなの調べるまでもなく問題があります。だって人が亡くなっているんですよ。
亡くなった方が働いていた企業だけの問題ではなく、業界全体の問題であることは明らかです。どこの会社も似たような現状だと思われます。
調べる時間ももったいないから、本気で是正する気があるなら今からすぐに是正していった方が良いと思いますが、時間稼ぎをしているのか、このままうやむやにしてオリンピックまで乗り切るつもりなのか。
本気で是正するつもりがあるのであれば、建築業界は残業上限規制を5年間猶予するなどということは撤回するべきではないでしょうか。
せめて十分な睡眠時間の確保を
亡くなった方の平均的な睡眠時間は1日2~3時間程度だったそうです。これは正常な睡眠時間とは到底言えません。
私の個人的な意見としては残業上限規制なんかよりも勤務間インターバル制度の方を先にやった方が良いのではないかと思っています。つまり睡眠時間の確保です。
睡眠不足の状態だと集中力が低下して作業効率が落ちるだけではなく、ネガティブな発想をすることも比較的多くなってしまうように思います。人間の心が元気でいるためには適切な睡眠時間の確保は絶対に欠かすことができないものだと感じています。
睡眠時間を削らせるのって一種の拷問みたいなものではないでしょうか。ありますよねそういう拷問。ずっと睡眠時間が削られ続ければ精神的に病んでしまっても致し方ないように思います。
名前出しませんけど世の中への影響力のある方で、できるだけ睡眠時間は削るべきだとか今でも発信してる方いますよね。人間が寝ないとダメだというのは錯覚だとかそういうこと発信するのは個人的にはやめてほしいと思いますね。
ショートスリーパーの人は実際にいると思いますけど、睡眠時間に関しては健康に直結する問題ですし、今回のような事件が起きてしまうと余計にそう思います。
オリンピック開催時期が迫っているので工事も進めないといけないという現実的な問題もありますが、せめて睡眠時間の確保だけは行っていただいた方が良いかと思います。
IT業界でもすぐに残業減らしたり休日出勤を無くしたりするのは現実的ではないという会社でも、勤務間インターバルを設けることによって、前日の勤務終了から11時間は休まなければならないということを徹底するだけでも、睡眠時間を確保できて最低限の健康は保てるのではないかと思います。