エンジニアは数字を意識するべきか(客先常駐編)


エンジニアは数字を意識するべきかというテーマについての記事が先日出ており、その内容はというと「エンジニアに数字を意識させたところでメリットはない」という内容でした。いやいやそれは違うだろということで、昨日こんな記事を書きました。

エンジニアは数字を意識するべきかについて経営者の立場で考えてみた

経営者に限らず、エンジニアもきちんと把握しておくべき数字を知っておくことによってパフォーマンスは必ず上がるという内容を書きました。大筋としてはエンジニアも数字を意識するべきという主張に間違いはないとわたくし個人は考えておりますが、それに対してこんなツイートがありました。

私としたことがこれに関しては重大な見落としをしておりました。確かに客先常駐で仕事をしているエンジニアは偽装請負という普通ではない環境を余儀なくされているため、普通のエンジニアとはかなり事情が異なりますね。

本日は昨日に引き続きまして「エンジニアは数字を意識するべきか」というテーマに関して、客先常駐のエンジニアの視点で書いてみたいと思います。

客先常駐エンジニアの数字とはそもそも何なのか

客先常駐のエンジニアというものは、月単位の単価がおいくらです、という形で人身売買のようなことが行われています。多重下請けになっておりますからそこでは転売も盛んに行われております。この時の単価のことを人月単価と呼びまして、人売りをしている企業のビジネスのことを人月商売などと言ったりします。

実質派遣なのに多重下請け構造の中で多重派遣という転売が行われることは違法行為ではないのかというポピュラーな話もありますが、これについては本日のテーマとは直接関係ありませんのでいったん置いておきます。

客先常駐のエンジニアに「数字を意識しろ」と言うとすれば、その数字とはずばりこの人月単価ということになるわけであります。エンジニアに自分の数字を意識しろ、つまり人月単価を意識しろという発言は、「僕はおいくら万円という人月単価で毎月売られています」ということを意識させるに過ぎないという、非常に悲しい結末に帰結してしまいます。

このあたりから既に「客先常駐のエンジニアは数字を意識するべきか」というテーマに関して、かなりの疑問符がついてくることになりますね。客先常駐で働いているエンジニアの皆さんが「数字なんて知ったところで無意味!無意味すぎる!」と叫んでいたところで致し方ないことなのかもしれませんね。

それでも意識を高く持って客先常駐エンジニアに数字を意識させてみるとどうなるか

客先常駐のエンジニアが数字を意識することは意味ないんじゃないの?という疑問が頭から離れなくなってしまいましたが、会社経営に携わる人間としてはここで終わらせる訳にはいきません。企業とは売上と利益を追求する存在でなければなりません。ボランティア活動ではないんです。

そこで売上をアップさせるという視点から、人売りIT派遣企業の経営者が現場のエンジニアに数字を意識させようとするとどうなるかをシュミレーションしてみました。

客先常駐のエンジニアの売上は既に述べたように人月単価という形で一応決まっておりますが、一般的にはエンジニアの一ヶ月あたりの稼働時間の上限と下限についても契約に盛り込まれています。

例えば、人月単価は50万円で、エンジニアの稼働は月あたり160時間~200時間までとする、といった感じです。この上限と下限をはみ出すような場合には「上下割り」と言って上限を超えた時は50万を200時間で割った2,500円で時給精算し、下限を下回った時には50万を160時間で割った3,125円で時給精算します。

それではこの前提条件で、売上アップに熱心な意識高い系の人売りIT派遣企業の経営者が現場のエンジニアに「数字を意識しろ」と言うとどうなるかを考えてみます。

人売り経営者「売上アップできるようにもっと数字を意識しろ」

エンジニア「わかりました。貢献できるように業務効率を意識します。」

人売り経営者「違うだろ。業務効率上げたところでお前の人月単価は変わらないだろ。」

エンジニア「じゃあどうしたらいいんですか?」

人売り経営者「お前が売上あげるためには200時間以上働けばいい。簡単だろ?」

エンジニア「・・・」

人売り経営者「長く働けば働くほど売上が上がる。お前ももっと数字を意識しろよ。」

恐ろしいですね。人売りIT派遣企業の中では日々こんな感じのやり取りが繰り広げられているわけですね。というのは冗談で、さすがにここまで露骨なブラックトークは展開されていないと思いますが(と信じたい)、こういった要素が客先常駐プロジェクトだと長時間労働化しやすい一因となっていることは間違いありません。

客先常駐のエンジニアが業務効率化するとどうなるのか

では今度は逆に、客先常駐のエンジニアが業務効率化をして稼働時間を短くした場合について見てみます。先ほどと同じ前提で、月当たり160時間~200時間となっているものとします。

客先常駐のエンジニアが、エンジニアたるものスキルを駆使して業務効率化を実現するべきだ!と意気込んで、実際その通り努力して残業も一切せずに稼働時間を減らすことに成功したとします。

素晴らしいですね。こんなエンジニアはうちの会社でもどんどん採用したい。

プロジェクトで自分が担当しているタスクの進捗も前倒しで進んでおり、「この状況だったらプロジェクトにも迷惑はかからないし有給を使おう」と考え、現場のプロジェクトリーダー(他社の人間w)に休みたい旨を伝えます。

現場のリーダーとしてもプロジェクトの進捗が前倒しで進んでいることを確認し、「よく頑張ってくれてるしたまにはゆっくり休んでリフレッシュしてね」とねぎらいの言葉をかけつつ休みの許可を出します。他の会社の人間が休みの許可を出すのは違法ではないかというポピュラーな話もありますが、本日のテーマから外れますのでいったん置いておきます。w

現場のリーダーからも許可が降りたし、そのエンジニアは久しぶりの有給を満喫することができました。しかしです。話はここで終わりません。日々客先常駐で働いているエンジニアの方ならここで何が起きるかもう予想がつきますよね?

後日、自分の会社の意識高い系の人売りIT派遣経営者が激怒してそのエンジニアに電話をかけてきます。

お前が休んだせいで売上落ちたじゃねーか!どうしてくれるんだ!

どういうことかと言いますと、そのエンジニアの稼働の下限が160時間に設定されていた場合、それを下回ると月額単価から割り引かれてしまうんですね。

月の営業日が20日間だった場合にこのエンジニアが有給を1日取得すると、残業を一切やっていなかったと仮定すると月の稼働時間が152時間にしかなりません。8時間のマイナスです。8時間分差し引かれて、売上としては25,000円のマイナスとなってしまいます。

稼働が下回るようなことがあると、間に入って中間マージン搾取しているゴミ企業からクレームが入ることもあります。とんでもない話ですよね。

そこでこの意識高い系の人売りIT派遣企業の経営者が言います。

もっと数字を意識しろと。w

160時間よりも稼働時間が下回ると売上が落ちるからそれを下回らないように数字を意識しろと言ってきます。どうしても有給取りたければ他の日に残業して絶対に下限を下回らないようにしろと言ってきます。

そうは言っても残業するほどやることない時だってありますよね。ではどうするかというと、やることなくてもとりあえず現場に出るということになります。仕事をするわけでもなく、やることないのに適当に時間を潰して契約の下限時間を下回らないように稼働時間の調整をします。

なんという無駄!これでは現場のエンジニアは業務効率化をしようなどいう気持ちも消え失せてしまいますよね。

実際こんな感じでやることなくても無駄に出勤して稼働時間調整しているエンジニアはたくさんいます。世の中無駄だらけです。

客先常駐のエンジニアが数字を意識しても無意味だったorz

悲しい結末ですがこれが現実です。客先常駐の場合だと現場のエンジニアが数字を意識したところで何の意味もありませんでした。

これは非常にもったいないことですね。業務を効率化しても何の意味もないどころか、効率化しすぎるとクレームが入ってしまったりすることすらある。なんと理不尽な世界なのでしょうか。何もかもが終わっています。

業務効率化というやりがいを奪われるということは、エンジニアとしては仕事のやりがいを半分は奪われてしまっているようなものです。業務効率化のやりがいを微塵も感じることのできない客先常駐のエンジニアは、自分の携わっているプロジェクトで新たなスキルや経験を積めるということによってなんとかモチベーションを保つしかありません。

業務効率化をしても褒めてもらえないという客先常駐の偽装請負という構造自体が間違ってるんですよ。絶対におかしい。そもそも違法だし。

そもそもエンジニアはITによる業務の自動化や業務効率化のスペシャリストのはずじゃないですか。本来なら他業界よりも業務効率化が進んでて当然じゃないですか。それなのに業界全体が残業まみれっておかしいじゃないですか。

それもこれも客先常駐の偽装請負やってるゴミ企業が溢れかえってるのが悪いんです。IT業界の残業体質を根本的に改めようと思うのならこの構造をぶっ壊さないと先に進めないです。

これは問題意識を持っている経営者やエンジニアが取り組んでも如何ともしがたい部分がどうしてもあります。経営者なら自分の会社だけならこの構造から脱却して自社の残業体質を改善することもできますが業界全体は無理です。

ここはやはり国がしっかりと仕事をしてもらわないと困ってしまいます。法律で偽装請負は禁止されているわけだし放置してないでしっかりと仕事してバンバン取り締まれと言いたい。業務効率化をしたエンジニアがバカをみる構造は絶対におかしい。

労働生産性の国際比較(経済産業省)

労働生産性の国際比較(経済産業省)

先進国の中での日本の労働生産性がずば抜けて低いというのは有名な話ですが、一人ひとりの業務効率化の意識を潰してしまう偽装請負のようなバカなことをやっているようでは生産性が上がるわけがないのです。

国をあげて日本の労働生産性を上げていこうというのであれば、客先常駐の偽装請負をまずは叩き潰さなければならないと思います。