IT業界に蔓延する客先常駐によるシステム開発ですが、もう今更言うまでもなく理不尽なことだらけの世界です。
現在の客先常駐のスタイルが続く限りはIT業界の長時間残業の問題を解消することは難しいですし、働き方改革を推進し、日本のIT業界を成長させていくのであれば何としても現在の客先常駐によるシステム開発は消滅させていかねばならないと思います。
客先常駐スタイルのシステム開発の変なところをまとめてみました。
偽装請負が当たり前に行われている
客先常駐の何が一番おかしいかと言えば何といってもこの偽装請負です。どう考えても違法行為なのになぜか中々是正されません。
準委任契約だと請負契約ではないから偽装請負にはならないと勘違いしている愚かな経営者もいますが、違法行為であることは薄々気づいて(というか完全に気づいて)偽装請負に手を染めている経営者もいます。彼らは偽装請負のことを「グレーゾーン」のような呼び方をしますが、グレーではなくて完全に真っ黒です。
この偽装請負こそがIT業界からいつまでたっても長時間労働がなくならない原因の根底にあると言っても過言ではなく、IT業界の長時間労働を解消するためにはまず偽装請負をなくさなければ話になりません。
長年にわたって違法行為である偽装請負が行われてきているためか、これが当たり前の状態になってしまっていますが、IT業界の様々な問題の根底にある元凶とも言える大きな問題です。
プロジェクトリーダーが公然と募集されている
客先常駐のプロジェクトではプロジェクトリーダーが募集されていることは普通にあります。これは偽装請負が行われていることの証拠とも言えます。
リーダーともなればプロジェクトメンバーに対して業務上様々な指示を行う必要があります。メンバーに指示をしないリーダーなどありえません。しかし募集されている契約形態は派遣契約ではなく準委任契約もしくは請負契約ですから、この場合他社の人間との間で指揮命令が行われてはなりません。
他社の人間との間で指揮命令を行うことができないはずの準委任契約・請負契約において、指揮命令を行わなければならないプロジェクトリーダーが募集されていること自体が大きな矛盾を抱えていることになります。
協力会社に対しては”御社所属まで”を要求する
これはどういうことかと言いますと、偽装請負の違法性を認識している会社の場合には、一応偽装請負にならないようにできるだけの努力はしようとしているのだと思われます。
通常の派遣契約の場合だと複数の会社にまたがって人が派遣されるいわゆる多重派遣は法律で禁止されています。書面上の契約形態が派遣契約ではなかったとしても、実質的に派遣である場合には多重派遣だと問題になります。
協力会社の社員であれば自社への派遣は特定派遣という形をとることができ(これももうすぐできなくなりますが)、自社に派遣されてきている特定派遣のエンジニアと一緒に客先で仕事をしているという形にしておくという、かなり無理のあるやり方をしているのだと思われます。
御社所属までと言われたところでブラックな偽装請負企業はどうするかというと、他社の人間に対して自社の名刺を持たせて所属を偽らせるというようなことが行われるようなこともあるようです。他社の名刺を持たされた経験のある方も多いのではないでしょうか。
あと1年ほどで特定派遣が完全に廃止になると、「御社所属まで」もあまり意味がなくなりそうですので他社の名刺を持たされるというようなことは今より少なくなるかもしれませんが、開き直って偽装請負が継続される可能性もあります。
年齢制限がついていることが多い
どうして年齢制限がついているのかよくわかりませんが、客先常駐の案件の募集には確かに「20代まで」とか「30代まで」というように年齢制限がついていることがあります。
年齢が上がると単価が高くなるからそれが嫌われ年齢制限がついているという説を聞いたことがありますが、アクシアに面接に来られる40代や50代の客先常駐エンジニアの方に話を聞いていると、高い単価を提示しなくても年齢だけで門前払いにされることが多いとのことでした。
どうして年齢制限を付けるのかいまだに謎ですが、こういう謎な条件が付いていることは客先常駐案件には割とよくあることで、他にも「女性限定(容姿端麗な方)」というとてもエンジニアの募集とは思えないようなとんでもない条件がついている案件もあります。
こういう人としてどうなの?というような案件でも恥ずかしげもなく案件マッチングしようとするところが人売りIT派遣企業のすごいところです。
契約満了時に抜けようとすると怒られる
数年単位の長期間前提の要員募集だったとしても、契約が年単位の長期で交わされるようなことはありません。多くの場合は2~3か月の短期間で契約が切られていることがほとんどではないでしょうか。
これはもちろん何かあったときにいつでも切り捨てられるようにするためにそうなっています。請負元にリスクを負うつもりなど毛頭ありません。
かといっておかしなことに、契約の切れ目の時に契約の更新をせずにプロジェクトを抜けようとするとかなりの確率で請負元から怒られます。
自分たちはリスクを負いたくないから契約期間を短くしているのに、契約満了時にそのまま終了にしようとするとブチ切れられてかなりの確率で揉め事になるというおかしな関係になっています。
当たり前ですが契約を更新するかしないかについては、契約している両者ともに選択する権利がありますので、契約の切れ目で契約更新をしなくとも何の問題もありません。
長机の狭いスペースの現場が多い
デスクワークをしている普通の一般的な会社の場合だと、通常は小さくても100センチ~120センチくらいの机が1人ずつ支給されていると思いますが、客先常駐でシステム開発を行う場合にはそうでないことも割とあります。
誰が最初にこういう環境でエンジニアに仕事させることを考えたのか知りませんが、長机があってそこに隣の人と肘が当たってしまうくらいの狭いスペースで仕事をしなければならないという客先常駐現場は結構あります。
しかしこういう劣悪な環境で働かされるのは末端のエンジニアだけで、客先の人間は広いデスクで普通に仕事していたりします。こんな奴隷のようなやり方誰が最初に考えたのでしょうか。
貧弱なスペックの開発マシンが支給されることが多い
システム開発では高スペックなマシンを使った方が開発効率が良いことは当然で、ハード面での費用などたいしたことないので高スペックマシンを支給した方が生産性が上がるに決まっているのですが、客先常駐では貧弱なスペックのマシンが支給されることも多いです。
上記で述べたような長机で狭いスペースで作業させられることもありますから、そうするとデュアルディスプレイなどは夢のまた夢になってしまいます。
これはエンジニアとしては非常につらいものがあります。これだけでエンジニアにとっては仕事のモチベーションを奪われるだけの十分な理由になります。
エンジニアとしては高スペックな開発環境でさくさくとストレスなく開発を行いたいものなのです。逆に高スペックな開発環境が支給されるだけでも心が躍りモチベーションが上がったりもします。もちろんモチベーションだけでなく、高スペックですから生産性も上がります。
スーツ着用を求められることが多い
エンジニアが開発するときにスーツを着る意味があるのかという問題もありますが、問題はそこではありません。
客先で作業するという事情があるにせよ、おかしいのは他社の人間から服装についての指示が入ることです。自社の人間ならともかく他社の人間から服装に関してとやかく言われる筋合いは本来ないはずです。
エンジニアは私服で良いイメージがあり私もそれで良いと思いますが、別に会社の方針で全員スーツの会社があってもそれはそれで良いと思うのですよ。エンジニアに受け入れられやすいかどうかは別として。
でもそれは自社内での規定であるべきであって、他社の人間に対して服装の指定をするということがかなりの異常事態だと思います。自分の会社の従業員だと思って違法に指揮命令していることが普通になっていることの表れとも考えられます。
勤怠に問題があると他社からクレームや指導が入る
勤怠がひどいのはどうなの?という問題はいったん置いといて、これもスーツの件と同様、従業員の勤怠に関して他社からとやかく言われるような筋合いはありません。
労務管理上の責任は全てその従業員が所属している会社になくてはならないはずであり、他社が介入して良いものでもありません。
それなのに客先常駐の現場だとそういうおかしなことが当たり前に起きてしまいます。
休む時は自社と客先の両方の許可が必要
これもスーツや勤怠の件と同じでどう考えてもおかしなことですね。客先常駐の弊害と言わざるを得ません。
有給は従業員の権利であり、本人が取得したいときにいつでも取得できるというのは今や常識となっています。有給を取らせない企業があると問題になりますね。
違法な偽装請負が行われている客先常駐の場合にはもう一歩問題が進んでいて、なんと自社だけではなく客先でも休みを取る許可を取らなければなりません。
一緒に仕事しているのだから仕方ないのでは?という意見もあるかもしれませんがこれが問題なのです。労務管理の責任の所在が曖昧になってしまっている良い例だと思います。
こんなんだから自社の裁量で従業員の労務管理を行うなど困難になってしまいますし、長時間労働の問題が発生したとしても自社では解決が困難になってしまいます。
非効率であればあるほど儲かってしまうことがある
通常は効率的に働いた方が儲かるようになっているべきですが、客先常駐の場合には必ずしもそうとは限りません。むしろ仕事のできない人が非効率にダラダラ働いていた方が売上があがってしまうことも多々あります。
SESとは請負契約と違って時間による精算を行う契約形態になっていますので、長く働けば働くほど売り上げはどんどん伸びていくことになります。
これだと自社の従業員に長時間労働の問題が発生していたとしても、会社として是正するように働きかけにくくなってしまうこともあると思います。なぜなら長時間労働化すればするほど会社の売上が伸びていくわけですから・・・。
普通の会社で生活残業しているような人がいますが、あれと同じ構造です。残業代ほしさに生活残業している人のように、売上ほしさに客先常駐しているエンジニアの長時間労働歓迎となってしまっている会社はあると思います。
契約時間の上限までこき使われてしまう
客先常駐の契約では通常は月○○時間~○○時間までの稼働は○○万円というように、エンジニアが稼働する時間に幅が持たせてあります。これを上回ったり下回ったりすると上下の時間で単価を割った時給で精算します。
多分160~200時間くらいになることが多く、良くても140~180時間です。炎上しているプロジェクトだとだいたい160~200時間になっていると思います。ひどいと上限なしという場合もまれにあります。
そうすると客先としては何を考えるかというと、上限が200時間だった場合にはエンジニアを200時間まで稼働させないと損だと考えるようになります。こういう契約内容になっているのだから営利目的の企業としてはある意味当然の話でもあります。
160時間くらいでさっさと帰っていくエンジニアがいたとすると、客先の会社の上司から「もっと働かせろ」と指示がされて、200時間ぎりぎりまで働かせようとしてきます。
そうすると効率的に仕事をこなして早く帰ろうと努力していたエンジニアは、どうせ頑張って早く仕事を終わらせても次から次へと仕事を振られて結局早く帰れなくなります。そうなってしまうと効率的に仕事をこなそうというモチベーションも当然なくなっていきますよね。
こうして効率的に仕事をこなそうと努力するエンジニアの心も折られ、長時間残業の現場となっていきます。
他社の人間に指揮命令があるとこういうことになってしまいます。だから偽装請負は問題なのであり、IT業界の生産性を高めていくためには絶対になくしていかなければならないものなのです。
まとめ
こうして見ると偽装請負は現代の奴隷制度そのものと言っても過言ではありませんね。ドナドナとか人売りとかよく言われますし、私が勤めていた会社の社長はエンジニアを右から左に流す仕事のことを人身売買と呼んでいました。
たまにこの業界の偽装請負のことを「必要悪」みたいな言い方をする人もいます。違法かもしれないけど需要があるのだから仕方がないではないかと。
では需要があれば良いのかというともちろんそんなことはありませんよね。昔の奴隷制度だって需要はあったのだと思いますが、だからOKとなるわけがないです。
日本のIT業界を良くしていくためにも、IT業界に長年にわたって蔓延している偽装請負は何としてもなくしていかねばならないと思います。