今でこそアクシアはホワイト企業だと言っていただけるようになりましたが、5年ほど前まではそれはもうとんでもないブラック企業でした。毎日終電は当たり前で徹夜や休日出勤も珍しくなく、人を雇っては辞めてをひたすら繰り返してしまうIT業界でよく見かける典型的なブラック企業でした。
そんな超絶ブラック企業だったアクシアが残業ゼロの改革を断行し、2017年3月にはホワイト企業アワードで大賞受賞させていただくまでに会社の在り方を大きく変革させることに成功しました。
残業ゼロを5年間継続してきて思うことですが、今流行りの働き方改革においても残業削減は非常に重要な要素であることは間違いありませんが、残業がゼロになればそれでホワイト企業というわけではないと思います。
今振り返ってみた時に、残業ゼロを含めてホワイトな環境を作るためにアクシアがどんなことを実行してきたのかをまとめてみました。会社の在り方というものは100社あれば100通りの形がありますので、アクシアが実行してきたやり方が絶対的な正解ではありませんが、ブラック企業から生まれ変わりたいと今もがき苦しんでいる方の少しでも参考になれば幸いです。
1.法令遵守すること
当たり前すぎることですがまずは企業として法令遵守することです。これができていないとお話になりません。話はそれからです。
労働者の方からすると「ふざけるなそんなこと当たり前だろ」といった感じかもしれませんが、その当たり前のことができていない存在がブラック企業なのです。全ての経営者が当たり前のことができていたらブラック企業なんてこの世に存在しませんよ。
未払い残業代や裁量労働制の悪用など色々と問題を抱えている企業は今も多いと思いますが、IT業界でシステム開発を事業としている会社の多くは偽装請負という違法行為が常態化しているという現実があります。どんな大義名分を掲げようともダメなものはダメなので、まずは法令遵守を徹底することが必須です。
法律は非常に複雑なので知らず知らずのうちに実は違法状態にあったということは起きえることではありますが、違法状態と知りながらそれをそのまま放置することは論外です。企業として法令遵守しようという姿勢は最低限必要なのですが、色々と言い訳して法令遵守しようとしない企業も多いのが実情です。
2.経営者として意識を改めること
これも当たり前すぎて今からすると笑えてしまうようなことなのですが、ブラック企業時代の私は会社の問題の原因を主に従業員のせいにしていました。
残業が中々なくならないのは従業員のスキル不足が悪い、従業員の集中力が足りていない、従業員が最初から質の高い仕事をしないのが悪いといった具合に、全て悪いのは自分ではなく人のせいだと思うようにしていました。
もう今となっては恥ずかしい限りですが、問題の原因を従業員のせいにしてしまうようであれば別に私がこの会社の経営者である必要などないわけですよね。問題があればそれを解決していくのが経営者の仕事なのに、それを人のせいにしてしまうあたり無能にも程がありました。
経営者もしくはリーダーであれば問題の原因を人のせいにするのではなくてそれは自分が解決していくものだと直ちに意識を改めること。組織に属する労働者の立場なのであれば簡単ではありませんが組織トップの意識を改めてもらえるように説得するなりして全力で働きかけることですね。それが無理ならいつかリーダーが変わってくれることを信じてじっと耐え忍ぶか、それも無理なら辞めるしかないですね。
組織の体質というものはリーダーの考え方に大きく左右されますから、組織トップの考え方が変わらないことには変革は難しいと思います。
3.労働環境を改めること
アクシアの場合はこの中の残業ゼロの部分が注目されることが多いですが、残業削減は労働環境改善の取り組みの一つでしかなく、労働環境改善は組織をホワイト化するための取り組みの一つでしかありません。
アクシアでは残業ゼロに続いて今年度有休取得率100%を目指しておりますが、企業経営において労働環境改善はこれからの時代では必須要素となってきます。それは慈善活動的なものでも対外的なPR活動でもなく、企業が生き残るための経営戦略です。なぜなら労働環境を改善しなければ優秀な人材を採用できない時代となってきているからです。
人口減少に伴って労働人口もどんどん少なくなっていきますし、労働環境を改善して様々な状況の人が働ける環境(ダイバーシティ)がないとこれからは十分な労働力を確保しにくくなりますし、労働者が会社に求めるものとしても労働環境を重視する傾向が強まってきており、これからは優秀な人材を確保するためには労働環境の改善が重要な要素となってきていることは統計からも明らかです。
4.顧客との関係を改めること
自社をブラック体質から脱却させてホワイト化させるためには自社内だけの努力では難しいです。自社内でどんなに業務効率化を進めて環境改善したところで、顧客から理不尽な要求を受け続けているような状況であれば、いつまでたっても労働環境を改善することなど不可能だからです。
自社の環境を改善したいと思うのであれば、現在の顧客との関係のあり方をゼロベースで徹底的に見直す必要があります。
自社で顧客に提供するサービスは何なのかを明確にして、それ以上の過剰な要求は全てお断りする。お客様は神様だという妄想を捨て、お客様だって間違ったことも言うし理不尽なことも言うという事実を認識し、その場合には毅然と対応するように改める。無理なことは無理だとはっきり断り、顧客の無茶な要求を自社の負担で引き受けることをやめる。
そして過剰な要求を断ることを許してくれないモンスター顧客とは関係を断つ勇気を持つ。こうして顧客との関係を徹底的に見直すことが必要です。自社の環境をホワイト化するためには、顧客との関係見直しは大変重要な要素です。
顧客の言いなりになっているだけで顧客との対等な関係を築けずにいるうちは自社のホワイト化など夢のまた夢となるでしょう。他社の事例を見ていても顧客との関係性が自社の環境を改善するためのネックとなってしまっている企業は結構多いのではないでしょうか。
たとえ理不尽であっても顧客の要求を断ることは非常に勇気のいることではありますが、顧客との関係性見直しなくして自社の改善はありません。
5.従業員とは一定の距離を置くこと
かつては経営者として従業員と家族のように接するということを考えていた時期もありました。それが良いのか悪いのかは今でも正解はわかりませんが、そういうことはやめた方が良いというのが私の現在出している結論です。
アクシアの経営陣は従業員のプライベートには一切立ち入らないように配慮しています。例えばこの3連休でどこか行ったの?とか何かしてたの?みたいなことは意識して聞かないようにしています。経営者の立場からだとなんてことない質問だったとしても、従業員の立場からするとそれが多大なストレスに感じることもあるからです。だから従業員の方から話してこない限りは、従業員のプライベートの話はこちらからは聞かないようにしています。
また公平性の観点から従業員との個別の付き合いをしないようにしています。個別の付き合いとは仕事後にラーメンを食べに行ったりということも含めてです。従業員の方から飲みに行きませんかと言われることもありますが私は全部断ります。行くなら全員に声をかけて行きます。
仕事後に一緒にラーメンを食べに行くくらいいいんじゃないの?という意見もあるかもしれませんが、それをしてしまうと他の従業員から「あいつだけ特別扱いされてる」みたいに思われてしまう可能性があるため絶対にやりません。
アクシア経営陣の間で決めている線引の一つが「女性従業員にできないことはやらない」です。男性従業員をラーメンに誘うと聞くとなんてことないように感じますが、女性従業員を誘うとなると変な話になってきます。その時点で経営者が「従業員をラーメンに誘う」というのは従業員にとっては不公平なことなんですよ。
今まで発生したことはありませんが、悩みを抱えた部下の相談を聞くために個別に飲みに連れていくなんてこともあるかもしれません。その場合の基準は「会社の経費を堂々と使える内容かどうか」です。堂々と会社の経費を使えないような内容の場合は個別の付き合いとして禁止にしています。
経営者としては良かれと思ってやったことでも、従業員からはうざいと思われてしまうことがありますよね。そうならないようにアクシア経営陣の間では「従業員のプライベートに立ち入らないこと」「従業員と個別の付き合いをしないこと」を徹底するようにして、従業員とは一定の距離を置くようにしています。
経営者が従業員と一定の距離を置くことは、従業員が余計なストレスを感じないようにするためには重要な事だと考えています。
6.人として正しいと思うことを行うこと
私は別に聖人君子でもありませんし偉そうなことを言っているようで大変恐縮なのですが、アクシアの残業をゼロにしてこれから生まれ変わろうと決意した時にアクシアの経営陣で話し合って決めたことが「判断に迷ったら人として正しいと思うことをやろう」ということです。判断に迷った時はいつもこの基準に照らし合わせるようにしています。
企業は売上と利益を追求していくべきですが、売上と利益だけを追求していれば良いというわけでもありません。純粋に金儲けだけしていたいのであれば極論銀行強盗でもオレオレ詐欺でも何でもやれば良いということになりますが、もちろんそれで良いわけがありません。
IT業界で言うとSESという事業ははっきり言って儲かります。リスクを最小に会社を大きく成長させていこうと思った時にこれほど都合の良い事業は中々ないと思います。IT業界で金儲けだけをしたいのであればSESは悪くない事業でしょう。ただしエンジニアのためにはならないどころか、エンジニアから搾取しエンジニアを犠牲にする事業と言っても過言ではありません。SESの売上・利益はエンジニアの犠牲の上に成り立っています。
売上を伸ばすことを考えればSES事業は行うべきですが、私はそこに全く意義を感じませんし害悪だとすら思っているので客先常駐スタイルのシステム開発からは完全撤退しました。今後もやるつもりは一切ありません。偽装請負という違法状態でエンジニアから搾取して成り立っているSES事業を続けている経営者は、本当にそれで良いのか一度よく考えていただきたいです。
人として正しいと思うことを行うようにしていると、顧客や従業員にも思ったことははっきりと言えるようになります。理不尽な顧客に対して毅然とした態度で臨んでいるということはこのブログやTwitterでも時々書いていますが、顧客から何を言われようとも正しいと思ったことを言うようにしています。
従業員からもちょっとしたことですぐにハラスメントだと言われてしまう世知辛い世の中ではありますが、「正しいと思うことを行う」ようにしているため従業員が理不尽なことを言われた時には私は一歩も引きません。
今もブラックな環境で会社経営している経営者は、いつ従業員からの反撃にあうのではないかとビクビクしながら過ごしている方も多いのではないでしょうか。私も元々ブラック企業経営者でしたのでそうした気持ちはよくわかります。従業員からの反撃が怖いのは正しいことをしていないからだと思います。正しいことをしていればビクビクすることはありません。ホワイトな環境に生まれ変わってからはそういったことで思い悩むことが一切なくなりました。
私は別に優秀な経営者ではありませんし、元々会社をブラックに染めてしまった私ごときが偉そうに言える立場ではないのですが、元々ブラック企業だったアクシアがホワイトな環境を作るにあたって実際に実行してきたことをまとめてみました。経営者によって考え方は様々ですので、私とは違った考え方をされる経営者の方もいて当然ですが、ブラックな環境から抜け出せずに苦しんでいる経営者の方がいらっしゃったら、元ブラック企業経営者としての経験が少しでも参考になることができればと思います。