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「AIには無理」の賞味期限──今日できないことが、明日できるようになる時代の経営判断

目次
  1. 「私が生きている間は無理だからいいの」──90歳の合理性
  2. 危ないのは、戸田さんの言葉ではない
  3. 「AIには無理」は、負け続けてきた
  4. 検証した「無理」にも、賞味期限がある
  5. 「IT化は難しい」「コストが見合わない」も、賞味期限が切れているかもしれない
  6. 「AIには無理」の棚卸し──3つの問い
  7. 無理かどうかは、断言ではなく検証で決める

映画字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんが、90歳のインタビューで「AIに映画字幕は無理」と語った記事を読みました。私は戸田さんの言葉に深い敬意を持っています。そのうえで、経営者として別のことを考えました。この記事は、戸田さんへの反論ではありません。「AIには無理」という言葉を検証せずに自分の会社に当てはめてしまうことの危うさと、きちんと検証して出した「無理」にすら賞味期限がある時代の話です。

「私が生きている間は無理だからいいの」──90歳の合理性

2026年7月に配信された日刊スポーツのインタビュー記事(Yahoo!ニュース)で、戸田奈津子さんがAIによる映画字幕についてこう語っています。

ビジネス文、論文など感情のない文章の翻訳はAIは上手。だが、エモーションがないコンピューターにエモーションの翻訳は無理

戸田さんは1500本以上の映画に字幕を付け、ハリウッドスターたちの通訳も長く務めてきた、この分野の紛れもない第一人者です。字幕という制約の中で感情を日本語に置き換える仕事を半世紀以上続けてきた人の言葉には、実践に裏打ちされた重みがあります。

そして戸田さんはこの話を「私が生きている間は無理だからいいの」と笑って締めています。90歳の人生の時間軸で考えれば、これは完全に合理的で、正直に言えばチャーミングですらあります。ご自身の職業人生に対する答えとして、これ以上ないほど筋が通っていると私は思います。

危ないのは、戸田さんの言葉ではない

危ないのは、この記事を読んだ私たちが「そうだよね、やっぱりAIに◯◯は無理だよね」と、自分の会社の業務に無検証で当てはめてしまうことです。

「うちの仕事は人間相手だからAIには無理」「これは職人技だから無理」「うちの業界は特殊だから無理」──こうした言葉は、どの会社でも聞きます。問題は、その「無理」が検証した結果なのか、それとも検証しないための言い訳なのか、です。

戸田さんには半世紀以上の実践があります。では、自社の業務について「AIには無理」と言うとき、私たちには何があるでしょうか。多くの場合、実際に試した経験ではなく、「なんとなくの感覚」しかありません。感覚で「無理」と結論を出した会社と、検証して判断した会社の差は、この先数年で埋められないほど開くと私は考えています。

「AIには無理」は、負け続けてきた

「AIには無理」という断言には、負け続けてきた歴史があります。

  • 囲碁:「プロ棋士に勝つのはあと10年先」と言われていた中で、2016年にAlphaGoが世界トップ棋士を破りました。
  • 動画生成:2023年頃のAI動画は、人がスパゲッティを食べるだけの映像すらまともに作れないと笑われていました。数年後の今、実写と見分けづらいレベルの映像が生成されています。
  • プログラミング:「コード補完くらいはできても、実装はエンジニアの仕事」と言われていました。今はAIエージェントが設計を理解して実装し、テストまで書きます。

もちろん、今のAIにできないことはまだ山ほどあります。私が言いたいのは「AIは何でもできる」ではありません。「できる/できない」を当てずっぽうで断言することに意味がなくなった、ということです。無理かどうかは、断言ではなく検証で決める。それだけの話です。

検証した「無理」にも、賞味期限がある

ここからが、この記事で一番言いたいことです。

仮にきちんと検証して「今のAIには無理」という正しい結論を出したとしても、その結論には賞味期限があります。しかもその期限は、かつての数年から、いまや数ヶ月に縮んでいます。検証した結果「今日は無理」だったものが「明日は無理じゃない」──それが普通に起きる時代です。

私たちの業界で言えば、ソースコードのレビューがまさにこの過渡期にあります。少し前まで、AIによるコードレビューは「参考程度」というのが大方の見方でした。今も業界内では「レビューは人間がやるべきだ」「AIには設計の文脈まで読めない」という意見と、「もう任せられる」という意見が割れています。まさに今、結論がひっくり返りつつある現場です。

アクシアのスタンスは明確で、「コードレビューはAIに任せられる」です。実際に自社の開発では、コミットのたびにAIのレビューが自動で走る仕組みを運用しており、AIがレビューすることを前提に設計した社内プロダクトもあります。人間は、AIの指摘を踏まえた最終判断とビジネス上の意思決定に集中する。少し前に「無理」と言われていた体制が、検証と再検証を重ねた結果、すでに日常になっています。

つまり、「一度検証して無理だった」で止まることも、また思考停止なのです。無理だったことのリストは、捨てるものではありません。モデルが世代交代するたびに真っ先に再検証する、優先順位付きの資産です。

「IT化は難しい」「コストが見合わない」も、賞味期限が切れているかもしれない

これはAIの最先端の話だけではありません。システムを運用している会社にとって、もっと身近な話です。

今までの感覚では「IT化は難しい」、あるいは「技術的には可能だが、コストが見合わない」とされてきた業務が、AIの進化によってあっさり実現可能になっているケースが増えています。たとえば:

  • 手書き帳票のデータ化:以前のOCRは認識率が実用に届かず、結局人が打ち直していました。今は手書きでも実用レベルで読み取れます。
  • 問い合わせ対応の一次自動化:昔の「決まった質問にしか答えられないボット」ではなく、自然な文章を理解して振り分け・回答できます。
  • 会議や電話の議事録化:専用機材も専任の書記も不要になりました。
  • 仕様書が残っていない古いシステムの解析:人手でソースコードを読み解くと莫大な工数がかかっていた作業が、AI解析で現実的なコストになりました。アクシアでも、他社が開発したシステムの引き継ぎでAIによるコード解析を実際に使っています。

「昔、見積もりを取ったら高すぎて諦めた」「あのとき無理だと言われた」──その記憶のまま止まっている業務はないでしょうか。もちろん、すべてが安くなるわけではありません。ただ、数年前の「無理」や「高い」を根拠に今日の判断をしているなら、その根拠はすでに賞味期限切れかもしれないのです。改修や機能追加の費用がどう決まるかはシステム改修の費用と流れで解説していますが、まずは「見積もりを取り直してみる」だけでも判断材料が変わります。

「AIには無理」の棚卸し──3つの問い

そこで提案です。自社の中にある「AIには無理」「IT化は無理」を、次の3つの問いで棚卸ししてみてください。

  1. その「無理」は、検証した結果か?──実際に試して無理だったのか、試さないための言い訳なのか。感覚だけの「無理」は、判断ではなく思考停止です。
  2. 「AIには無理」と「今のAIには無理」を区別しているか?──前者は信仰、後者は検証結果です。そして検証結果には日付を付けてください。「2026年7月時点では無理」と書いた瞬間、それは再検証すべき期日を持った情報になります。
  3. 「無理だったことリスト」を再検証する仕組みがあるか?──モデルが世代交代するたび、少なくとも半年に一度は、リストの上から順に試し直す。無理リストは負債ではなく、次に何がやれるようになるかを教えてくれる資産です。

無理かどうかは、断言ではなく検証で決める

アクシアはAIを「権限を委譲した部下」として扱い、最終的な責任は人間が持つ、という考え方で実践を続けています(詳しくはアクシアのAIに対する考え方にまとめています)。だからこそ「AIには無理」とも「AIなら何でもできる」とも断言しません。試して、検証して、期限付きの結論を持ち、期限が来たらまた試す。それだけを続けています。

戸田さんの「無理」に重みがあるのは、半世紀以上の実践に裏打ちされているからです。私たちが自社の業務について語る言葉も、同じように実践と検証に裏打ちされているべきだと思います。

エモーションの翻訳がいつAIにできるようになるのか、私には断言できません。ただ、「無理」と言われたことが次々にできるようになっていく時代を、私たちは現に生きています。あなたの会社の「AIには無理」リストには、賞味期限切れが混ざっていないでしょうか。

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生成AI・AIエージェントの業務実装を、要件定義から自社一貫で開発します。

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